労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東海旅客鉄道(東京運転所第二脱退勧奨)(差戻控訴審)
事件番号  東京高裁平成18年(行コ)第326号
控訴人 東海旅客鉄道株式会社
被控訴人 中央労働委員会
被控訴人補助参加人 ジェイアール東海労働組合
判決年月日  平成19年10月25日
判決区分  棄却
重要度   
事件概要   本件は、東海旅客鉄道株式会社の新幹線鉄道事業本部の東京運転所の助役が、①ジェイアール東海労働組合の結成を妨害したこと、②結成後に分会の組合員に対し脱退勧奨を行ったことが不当労働行為であるとして申立てがあった事件である。
 初審愛知県労委は、申立てを棄却したが、中労委は、組合員に対する脱退勧奨については不当労働行為であるとして、会社に対し、支配介入の禁止及び文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。同地裁が、会社の請求を棄却したところ、会社はこれを不服として、東京高裁に控訴を提起した。同高裁は、分会員に対する助役の発言を、会社の意向を受けて脱退勧奨を行ったと中労委が認定したのは事実誤認であるとして、中労委命令の救済部分を取り消す旨の判決を言い渡した。
 中労委は、これを不服として、最高裁に上告受理申立てを提起したところ、最高裁は、原判決を破棄し、本件を東京高裁に差し戻した。東京高裁は、会社の控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 差戻前の控訴審、上告審及び差戻後の当審における訴訟費用は、参加によって生じた費用を含め、控訴人の負担とする。
判決要旨   争点(1)Y1科長は、労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者に該当するか否かについて
① Y会社の就業規則の規定は、所長は所業務全般の管理及び運営を行い、助役は所長の補佐又は代理を行うと定め、指揮命令系統においても、助役は、所長の指揮命令を受け、他の社員に対して指揮命令をすることとされている。他方、所長は人事に関する案を作成するに当たって、個々の社員の能力、適性、日常の勤務状況の把握を行うことが求められていたが、東京運転所には所長以外に463名の社員がいたことからすると、所長が自ら個々の社員の能力等を把握することは著しく困難であり、所長が人事に関する案を作成するには、助役の補佐を得て個々の社員に関する情報を収集し、かつ、必要に応じてその助言を得ることが必要不可欠であったと認められるし、科長は、助役の1人として自らの業務に携わるにとどまらず、自らの科に所属する助役の業務を取りまとめ、必要に応じて、他の助役に指示を与える業務を行っていたことからすると、科長は、他の助役以上に親しく所長を補佐すべき立場にあったと認めることができる。以上によると、Y1科長は、東京運転所の科長として、労働組合法2条1号所定のY会社の利益代表者である東京運転所長に近接する職制上の地位にある者に該当すると認めることができる。
 争点(2)Y1科長が組合員X1に対して、「会社が当たることにとやかく言わないでくれ。」、「会社による誘導をのんでくれ。」、「もしそういうことだったら、あなたは本当に職場にいられなくなるよ。」、組合員X2に対して「科長、助役はみんなそうですので、よい返事を待っています。」などの本件各発言をした事実の有無について
② Y1陳述書の信用性について
 Y会社は当審(差戻控訴審)において、Y1陳述書を提出し、これに基づいてY1科長が本件各発言をした事実はないと主張するが、同陳述書は、本件各発言があったとされる平成3年8月から15年以上も経過し、しかもその間、本件各発言の有無については、初審命令、本件命令、第1審判決、差戻前の控訴審判決及び上告審判決が出てから作成されたものであり、これらのことからすると、その信用性には疑問がある。加えて、Y1科長は、平成3年9月、平成5年2月の2度にわたってY会社の人事課長からの事情聴取に対し、具体的にどのような発言をしたかについては供述を拒み、陳述書等の書面の作成にも応じておらず、愛知県地方労働委員会及び中央労働委員会からの証人出頭要請に対しても拒否していることが認められる。そうすると、当該陳述書が事実に基づくものか否かには大いに疑問があるといわざるを得ない。この点、Y会社は、Y1科長が当審に至るまで陳述書を作成しなかったのは、Y1科長が属する別組合が他の組合の事件には関与しない方針であったからと主張するが、本件は、Y1科長の発言がY会社の不当労働行為と評価すべきと主張され、その発言の有無が重要な争点となっているのであり、このように従業員の行為について、使用者の責任が問われている場合、事実関係を明らかにするため使用者は当該従業員に事情を聴取すべきであるし、当該従業員もまたこれに協力すべきである。特にY1科長はY会社の利益代表者である東京運転所に近接する職制上の地位にあったのであるから、Y会社としても、組合が愛知労働委員会に本件救済申立てをした後は速やかにY1科長の陳述書を作成するのが合理的な対応であり、これをするのに格別の困難があったとは認められない。それにもかかわらず、本来作成されるべき書面が作成されないまま放置されていたこと自体が不自然不合理といわざるを得ないし、Y会社に不利益にならないようあえて書面を作成しないまま放置し、現在に至ったのではないかとの疑いを生じさせるものである。
 このようにY1陳述書は、発言があった平成3年8月から15年以上経過して作成されたことからして信用性に疑問がある上に、その間陳述書が作成されなかった事情も不自然不合理であって、その内容の信用性に疑問を生じさせるものであり、全体として信用できないものといわざるを得ない。
 なお、Y会社らの申請によるY1の証人尋問については、Y1の陳述書の内容に信用性がなく、本件各発言は各証拠により認定することができるのであって、本件各発言から長期間経過した現時点においてY1科長の証人尋問を実施したとしても、その供述の正確性、信用性には多大の疑問を生じ、本件各発言の認定を左右するとは認められず、さらに中央労働委員会からは時機に遅れた攻撃防御方法であるとしてその却下を求められていること等からすると、同人の証人尋問を実施する必要はないといわざるを得ない。
③ Y1科長が組合員X1と個人的に親しい関係にあったか否かY会社はY1科長の陳述書に基づき、両者が個人的に親しい関係にあったと主張するが、同陳述書の信用性には右記のとおり疑問がある以上、その前提を欠くといわざるを得ない。その上、同陳述書の内容を前提としても、両名の年齢は17年の差があり、このように年齢が親子に近いほど離れている場合には、出身校が同じでということでいわゆる同窓の先輩後輩の間柄にあるとはいえても、それ以上に親密な関係にあるとは認め難いし、飲み会自体も職場での付き合いの延長上のものとみるのが相当であり、それを超えて両者が個人的に親密な関係にあるとは認め難い。
④ 本件8・19飲み会に誘ったのはY1科長かX3か
  Y会社は、Y1科長の陳述書及び本件8・19飲み会の勘定をX3支払ったことを根拠にX3が飲み会に誘ったものと主張する。なるほど、Y1科長の陳述書にはそのような記載があるが、この事実はX1に対する本件Y1科長の発言の有無に関する重要な事実であるにもかかわらず、Y1科長は、平成3年9月にY会社の人事課長から事情聴取を受けた際にこのような説明をしていないことからすれば、同陳述書はたやすく信用することはできない。また、組合員であるX1及びX3としては、Y1科長から飲み会に誘われていたとしても、酒食を提供されて脱退勧奨をされたとの誤解を避けるために勘定をすべて負担することも自然の成り行きであると考えられることから、右記Y会社の主張によって、本件8・19飲み会をX3が誘ったものと推認することはできない。
⑤ Y会社が別組合に対して好意的であったか否か
  Y会社は、2度にわたり別組合との間で共同宣言を締結し、労使の共通認識による安定した労使関係を維持しようとしており、Y会社が平成2年8月に作成した「争議権(ストライキ権)議論について」と題する書面は、別組合の中でストライキ権の確立を目指すX4派の動きが活発になった時期に作成されたものと認められるところ、その内容はX4派の動向を暗に批判するものと認められ、そのことからすると、Y会社がX4派が別組合を脱退して結成した組合よりも、従来の方針を維持している別組合に好意的であったことが認められる。
⑥ X1に対する本件Y1科長の発言の際にX1及びX3が組合の一組合員であったこと
  Y会社は、X1及びX3は、本件8・19飲み会の時点では組合の一組合員にすぎなかったのであるから、同人らに脱退勧奨を行っても影響力はなく、そのことを熟知しているY1科長がX1に対する本件発言をすることはあり得ないと主張する。
  しかし、別組合に所属していた当時、X1は東京運転所分会の書記長であり、X3は同副委員長であったのであり、 平成3年8月28日開催された組合の東京運転所分会結成大会において、別組合に所属していたときと同様にX1は同分会書記長、X3は同副委員長に選出されたことが認められ、これらに事実によると、両名が東京運転所分会内で相当の影響力を有し、Y1科長がそのことを熟知していたものと認めることができる。
⑦ Y会社がY1科長のX2に対する本件発言のうち、「科長は、助役はみんなそうですので、よい返事を待っています。」との発言は、客観的事実に反し、そのような発言をすることはあり得ないと主張するが、企業内の労働組合が対立している状況下で、一方の組合に属する者が少しでも多くの組合員を獲得しようとする場合、自らに有利な事情を誇張して伝えることも十分にあり得ることで、現に東京運転所の科長全員と助役の3分の2は別組合にとどまったことには、当事者間に争いがないから、この程度の発言をすることは、当時の状況から自然な成り行きであると認められる。
  また、支配介入を行った管理者が労働組合員から強い反発を受けることはしばしば起こることであり、そのことから直ちに管理者が支配介入を差し控えるものと推認することもできないし、X2の勤務終了後に自宅に電話をかけている点も、脱退勧奨を密かに行うためにしたものとみることができるから、Y会社の主張はいずれもY1科長のX2に対する本件発言がなかったことにつながるものではない。
⑧ X1の供述等の信用性
  Y会社は、X1の供述には、陳述書、報告書及び労働委員会における供述を通じて変遷があり、信用できないと主張する。そこで、これらを検討するに、X1が平成3年9月に作成し、愛知県地方労働委員会に提出した陳述書には特に不自然な点は見当たらないところ、これに比べて同年8月29日に作成した報告書は、記載が簡略であり、平成4年8月から12月にかけて行われた愛知県地方労働委員会の審問期日における供述においては、右記報告書の記載のあるY1科長の発言の一部につき供述がなかったり、反対尋問において初めて供述したものがある、しかし、これらの記載や供述は相互に矛盾するものではなく、労働委員会における供述は本件から1年以上経過した時期に行われたものであること等からすると、これらの記載や供述が正確に一致していないとしても、X1の陳述書等の信用性を左右するものではない。
 Y会社は、X2の作成した文書の中に「確実なキ憶ではないかもしれません」との記載から、同文書による事実認定は不安定なものになると主張するが、この記載は、Y1科長が列挙した以外の発言をした可能性もあるがX2の記憶しているのは列挙したもののみであるという趣旨であると認められるから、X2の作成した文書の信用性を左右するものではない。
⑨ 上記②から⑧によると、Y1科長が本件各発言をした事実を認めることができる。
 争点(3)Y1科長の本件各発言について、別組合の組合員としての発言であるとか、相手方との個人的な関係からの発言であることが明らかであるなどの特段の事情があるか否かについて
⑩ 上告審判決が本件を当審に差し戻すに当たって、当審において審理すべき右記特段の事情の1つとして例示して判示したものであるが、同判決は、Y1科長によるX1及びX2に対する働き掛けが「別組合の組合活動として行われた側面を否定することはできないとしても」との留保を付した上で、本件各発言は右記特段の事情のない限りY会社の意を体してなされたものと認めるのが相当であるとしているのであるから、上告審のいう「別組合の組合員としての発言」とは、本件各発言を目して、Y1科長が科長としての立場を離れて専ら別組合の組合員として行ったと客観的に認めることができるかとの観点から判断すべきものと解される。このような観点から検討するに、別組合と組合とが対立していた当時の状況からすると、別組合の組合員としては、組合から1人でも多くのものが脱退して別組合に復帰することを望み、そのために組合の組合員に働き掛けしようとして、Y1科長が本件各発言に当たってそのような主観的意図をも有していたであろうことは推認することができる。しかし、上告審が指摘するとおり、本件発言の中には上司である科長の立場で行われたものが認められる。この点について、Y会社は、Y1科長が別組合の方針に従って発言したこと、X2に対する発言は、私的な時間を利用して別組合の組合員として行ったものであると主張するが、 客観的にみて上司としての立場からの発言と認められる発言をしている以上、Y1科長の主観的意図がどうであれ、その発言を専ら別組合の組合員として行ったものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる事情も見当たらない。
⑪ X2に対する本件発言はY1科長とX2の個人的な関係からの発言か否か
  Y会社は、Y1科長がX2と個人的に親しい関係にあったとの前提の下に、X2に対する本件発言が個人的な関係からの発言であると主張し、本件8・19飲み会はX3から誘われたものであるとの前提の下に、 X2に対する本件発言は計画的又は意図的なものではないと主張する。しかし、Y1科長がX2と個人的に親しい関係にあったとも、本件8・19飲み会をX3が誘ったものとも認められないから、この主張は前提を欠き採用できないし、他の X2に対する本件発言が個人的な関係からのものと認めるに足りる事情も見当たらない。
 争点(4)Y会社に対しポスト・ノーティスを命じることの適否について
⑫ 本件ポスト・ノーティス命令の内容は、Y会社の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させるものにすぎないから、Y会社の「沈黙の自由」を侵害するものではないし、同種行為の再発を抑制するとの目的を達成するのに必要な限度のものと認められるから、これが労働委員会の有する裁量権の範囲を逸脱するものでないことは明らかである。
  また、Y会社は、本件命令は、Y会社自身の行為を不当労働行為と認定したもではないから、ポスト・ノーティスを命じる必要がなく、さらにポスト・ノーティスよって、Y会社が私法上の義務を負うとの前提の下に、本件命令が私法自治に対する違法な介入であると主張するが、ポスト・ノーティスを命じる必要性もあり、ポスト・ノーティスを命じる労働委員会の命令が使用者に私法上の義務を負わせるとは解されないから、Y会社の主張は前提を欠き採用することができない。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
愛知県労委平成3年(不)第5号 棄却 平成7年10月23日
中労委平成7年(不再)第47号 一部変更 平成13年12月13日
東京地裁平成14年(行ウ)第46号 棄却 平成15年1月20日
東京高裁平成15年(行コ)第37号 全部取消 平成15年11月6日
最高裁平成15年(行ヒ)第50号 破棄差戻 平成18年12月8日
最高裁平成20年(行ツ)第36号、平成20年(行ヒ)第36号 上告棄却・不受理 平成20年3月18日
 
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