労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 函館厚生院
事件番号 東京地裁平成18年(行ウ)第619号(甲事件)、
       平成19年(行ウ)第245号(乙事件)
原告 甲事件原告兼乙事件参加人 社会福祉法人函館厚生院、
乙事件原告兼甲事件参加人 函館中央病院労働組合
被告 国(裁決行政庁 中央労働委員会)
判決年月日 平成20年3月26日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 本件は、Y会社が、①X組合が平成15年12月16日、団体交渉手続の変更、労働協約の解約、就業規則の変更について団体交渉を申し入れたのにもかかわらず、これを拒否したこと、②上記団体交渉に応じないまま、労働協約を解約し、就業規則を変更したこと、③平成16年1月30日の労使協議会において、X組合に対し、労使協議会の設置目的を逸脱した対応をしたこと、④X組合に対し、春闘時の組合旗掲揚及び腕章の着用等を許可しなかったこと、⑤X組合が、同年3月16日、平成16年度春闘要求について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、これを拒否したこと、⑥同年6月8日、X組合に対し、定期昇給等を求める署名活動に抗議し、その中止を求めたことが、それぞれ不当労働行為に当たるとして、北海道労委に救済を申立てたところ、北海道労委は上記①ないし③、⑤、⑥が不当労働行為であると認め命令を交付した。これに対してY会社及びX組合はこの命令を不服として、中労委に再審査を申し立てたところ、上記①のうちの一部のほか上記⑤及び⑥のみが不当労働行為に当たると認め、北海道労委の命令を一部変更した上で、その余の再審査申立てを棄却する命令を発した。
 Y会社及びX組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したものである。
判決主文 1 原告及び参加人の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,全事件を通じ,参加により生じた費用を
含め,原告に生じた費用と被告に生じた費用の3分の2
を原告の負担とし,参加人に生じた費用と披告に生じた
費用の3分の1を参加人の負担とする。
判決の要旨 争点1 平成15年12月16日の団体交渉申入れについて
 (1)組合員参加型団体交渉手続の変更、昭和52、53年協約の解約に関する団体交渉について
   ア 団体交渉においては、労使間の自由な意思(私的自治)ができる限り尊重されるべきであり、出席者等の団体交渉手続について、労働協約に定めがある場合はもちろん、そうでなくても労使間において労使慣行が成立している場合には、当該労使慣行は労使間の一種の自主ルールとして尊重されるべきであり、労使双方は、労働協約又は労使慣行に基づく団体交渉を行わなければならないというべきである。
   イ Y会社と、X組合における組合員参加型団体交渉は昭和43年4月から平成15年2月ころまで、毎年、原則として、春闘の際に行われ、昭和62年ないし平成3年ころからは秋闘の際にも行われ、その際、組合員参加型団体交渉は概ね1ないし4回行われたこと、Y会社は、X組合に対し、その間、組合員参加型団体交渉手続の変更を申し入れたことがなかったこと、約50ないし150名の一般組合員が参加していたが、一般組合員は、X組合4役ら執行委員の許可を得て発言していたこと、一般組合員の中には、拍手をする者等がいたが、これらの拍手等により団体交渉が中断したことはなかったこと、したがって、組合員参加型団体交渉が不合理であるとはいえない。また、団体交渉手続について定めた就業規則及び労働協約がないことからすると、組合員参加型団体交渉は、相当長期間にわたって反復継続して行われたものとして、労使慣行となっていたというべきであるから、Y会社はX組合から労働条件等の義務的団体交渉事項について組合員参加型団体交渉の申入れがあった場合には、正当な理由がない限り、これに応じなければならないというべきである。
   ウ 組合員参加型団体交渉手続の変更は、団体交渉手続の変更であって、団体的労使関係の運営に関する事項であるから、義務的団体交渉事項であるし、Y会社とX組合においては、昭和52、53年協約が定期昇給の根拠であるかどうかについて争いがあったのであるから、昭和52、53年協約の解約は、労働条件に関する事項として義務的団体交渉事項である。したがって、組合員参加型団体交渉手続の変更、昭和52、53年協約の解約について、団体交渉の申入れがあった場合これに応じなければならないというべきであるが、申入れがあったにもかかわらず、平成15年12月20日にこれに応じない旨回答し、その後も組合員参加型団体交渉に応じなかったのであるから、かかるY会社の対応は、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるというべきである。
   エ これに対して、Y会社は、組合員参加型団体交渉は、団体交渉の本質に反し、労使対等の正常な団体交渉を阻害していると主張するが、前記イにもあるように、団体交渉では4役が主に発言し、一般組合員が発言する場合は4役らの許可を得て発言する等であり、一般組合員が直接に交渉に加わることは想定されておらず、組合員参加型団体交渉でも、交渉担当者を通じた統一的交渉という骨格は維持されているから、組合員参加型団体交渉が、具体的な支障を生じてはいなかったことからすると、これが団体交渉の本質に反するものであったとまではいえず、また、一般組合員の中には拍手をするもの等がいたが、それで団体交渉が中断したことはなかったこと、平成15年3月4日まで組合員参加型団体交渉手続の変更を申し入れなかったことからすると、組合員参加型団体交渉によって、Y会社の交渉担当者が、不当な圧力を受け、労使対等の正常な団体交渉が阻害されたとはいえないというべきである。
   オ Y会社が提案した団体交渉手続案について一切検討せず、また、Y会社に対し対案の提出もないことから、Y会社が組合員参加型団体交渉に応じなかったことは団交拒否に当たらないと主張するが、X組合が、Y会社が提案した団体交渉手続案について一切検討しなかったと認めるに足りる証拠はないばかりか、Y会社は、X組合に対し、組合員参加型団体交渉手続の変更を提案したものの、その後も数回にわたり組合員参加型団体交渉に応じている上、参加人から提案には応じることができない旨回答された後も、特に交渉手続の変更を申し入れることもせず、平成15年12月24日の事務折衝において、組合員参加型団体交渉の「問題点」に関するX組合の質問に対し、抽象的に多人数の出席及び拍手が威圧的であるなどと回答するのみであって、過去の組合員参加型団体交渉における具体的な問題点を指摘することもなかったのであるから、X組合がY会社が提案した団体交渉手続案について検討しなかったとしても、やむを得ないことであって、組合員参加型団体交渉を拒否する正当な理由には当たらないというべきである。また、Y会社が新たな団体交渉手続の提案をしたからといって、X組合が譲歩し対案を提出しなければならないものではないから、X組合が対案の提案をしなかったことは、組合員参加型団体交渉を拒否する正当な理由にはあたらないというべきである。
   カ Y会社が、本件初審命令発令後、執行部団体交渉、事務折衝、労使協議会において、X組合との間で、組合員参加型団体交渉の変更、昭和52、53年協約の解約、就業規則の変更について具体的に交渉していると認めるに足りる証拠はないから、Y会社が組合員参加型団体交渉に応じなかったことが労組法7条2号の団体交渉拒否に当たらないとはいえないというべきである。
   キ 昭和43年4月から平成15年2月ころまで、参加人との間で組合員参加型団体交渉を行っていたにもかかわらず、その間、団体交渉手続の変更について一度も言及していないこと、平成14年度春闘をめぐる紛争についてされた道労委におけるあっせんの際、担当委員から、組合員参加型団体交渉について、今時珍しい大衆団交である旨指摘されたことが、団交手続の変更を提案する契機となっていることからすると、Y会社は平成14年ころまでの間、組合員参加型団体交渉について特段の具体的な不都合や問題を感じることなく、これに応じていたといわざるをえず、Y会社の主張に沿う証拠を採用することはできないから、Y会社の主張には理由がないというべきである。
   ク いったん確立した労使慣行であっても、正当なルールに則ってこれを変更することが許容されることもあり得ると解されるものの、Y会社が、組合員参加型団体交渉手続を変更するために誠実な対応をしていたとはいえないことに加えて、組合員参加型団体交渉手続が団体交渉の本質に反するとはいえないし、団体交渉手続案の検討については、前記オのとおりであり、X組合が組合員参加型団体交渉に固執し、Y会社が提案した団体交渉手続案に対して誠実に対応しなかったとはいえないというべきである。
     以上からすれば、組合員参加型団体交渉の労使慣行の破棄を正当視することは困難というべきであるから、同団体交渉の労使慣行を破棄したことをもって、Y会社による同団体交渉の拒否を正当化する事情となるとはいえない。
 (2)就業規則の変更に関する団体交渉
   ケ Y会社は、前記(1)のとおり、組合員参加型団体交渉に応じていないが、平成16年1月31日及び及び同年4月16日には、X組合との間で事務折衝を行っており、当該事務折衝には、Y会社からは人事部長、事務次長、看護部長らが、X組合らは4役、その他の執行委員がそれぞれ出席し、就業規則の変更について交渉したことからすると当該事務折衝は、一般組合員は参加していないものの、実質的には団体交渉であったと解される。また、同年1月31日の事務折衝においては、X組合からの質問に対して、新旧対照表に基づいて、出向、解雇事由等について回答しており、同年2月24日にX組合の質問に対し文書で休日及び休暇、日当直等について回答し、それを踏まえて、同年4月16日の事務折衝においてX組合からの解雇事由、出向等の質問に回答している。以上からすれば、Y会社は組合員参加型団体交渉には応じていないものの、その直近の時期に、Y会社の申し入れにより、X組合との間で事務折衝が行われ、また、その場で、Y会社は、X組合からの質問に対して具体的に回答し、その質問及び回答も、昇給、手当、退職金、出向、解雇、休日等の幅広い事項にわたっていることからすると、Y会社は、就業規則の変更について、実質的には事務折衝において団体交渉に応じているのであるから、団体交渉を拒否したとはいえない。
   コ 組合員参加型団体交渉においては、Y会社の交渉担当者は院長、事務部長、事務次長、看護部長等であり、Y組合の交渉担当者は、4役、その他の執行委員等であったこと、Y組合においては、4役が主に質問及び発言をして団体交渉に当たっていたことからすると、Y会社の事務部長及び看護部長らは、平成16年1月31日及び同年4月16日の事務折衝において、4役との間で、実質的には、組合員参加型団体交渉と同様に就業規則の変更について団体交渉を行ったといえる。
     したがって、労組法7条2号の団体交渉拒否が成立するとはいえない。
争点2 昭和52、53年協約の解約及び就業規則の変更について
   ア 就業規則の変更については、争点1のとおり、実質的には団体交渉を経て手続が進められたといえるから、Y会社が行った就業規則の変更がX組合を弱体化させるものとはいえず、仮に同協約が定期昇給を定めたものであるとしても、両協約の解約自体によっては、組合員を含む従業員が毎年1号俸の定期昇給を受けられなくなるおそれがあるに過ぎず、Y会社が組合員の賃金から組合費を徴収していることを考慮しても、両協約の解約自体が、X組合の結束及び運営の自主性に対し具体的にどのような影響を与えたのかが明らかではないから、これが、X組合を弱体化させる行為であるとはいえない。
   イ 平成14、15年度春闘及び平成15年11月4日の事務折衝において、両協約が全従業員の毎年1号俸の定期昇給を定めたものであるかどうかについて争いがあったこと等からすると、Y会社は、X組合の弱体化を意図したというよりは、両協約を解約することによって両協約に関する上記争いを解消し、ひいては平成16年度春闘以降の定期昇給に関する無用の争いを避けることを意図して両協約の解約を予告したものと解されるから、両協約の解約について、原告に支配介入の意思があったとは認められない。また、就業規則の変更についても、組合員参加型団体交渉には応じていないものの、X組合との間で事務折衝を行い、実質的に団体交渉に応じたといえること、Y会社は、X組合に対し、繰り返し意見書の提出を求めたにもかかわらず、X組合は意見書の提出をしなかったことからすると、X組合の意見書を添付しないまま、労働基準監督署長に対し就業規則の変更を届け出たことは、やむを得ないというべきであり、X組合の弱体化を意図したものとは認められないから、就業規則の変更についても、Y会社に支配介入の意思があったとは認められない。X組合は両協約により昭和54年から平成13年まで定期昇給があったというが、上記のとおり争いがあったことからすると、Y会社に不当労働行為意思を有していたと認めることはできない。加えて、昭和52、53年協約は、Y会社の従業員の賃金に国家公務員の俸給表が準用されることを前提とし、無条件に、全従業員の毎年1号俸の定期昇給を定めたものではないと解することに、より合理性が認められるというべきであるから、上記主張はその前提を欠くといわざるを得ない。
争点3 平成16年1月30日の労使協議会における対応について
   ア Y会社は、平成15年10月15日、X組合との間で、本件病院の経営状況に関する共通認識を深めるため、Y会社とX組合間の諸問題を協議することを目的として労使協議会を設置することを合意し、また、Y会社は、平成16年1月30日、労使協議会において、X組合に対し、平成15年度3月期末手当を0.2か月とする旨回答した。しかし、同年度3月期末手当をいくらにするかという問題も諸問題の一つであるといえるし、当該問題について協議することが本件病院の経営状況に関する理解に資するものでないともいえないから、Y会社が同年度3月期末手当を0.2か月とする旨回答したことが、労使協議会の設置目的を逸脱するとはいえない。
   イ 上記回答についてX組合の結成及び運営の自主性(独立性)を阻害するおそれがあるといえないから、上記回答はX組合を弱体化させる行為であるとはいえないし、また、Y会社にX組合の弱体化を意図した支配介入意思があったとはいえない。
争点4 平成16年度春闘に関する団体交渉について
   ア 労使間には遅くとも平成15年2月ころには、組合員参加型団体交渉の労使慣行が成立していたというべきであり、平成16年春闘の要求事項は、労働条件に関する事項として義務的団体交渉事項であるというべきであり、同年度春闘要求について組合員参加型団体交渉の申入れがあった場合には、これに応じなければならないところ、Y会社は、X組合から平成16年度春闘要求について組合員参加型団体交渉の申入れがあったにもかかわらず、これに応じない旨回答し、組合員参加型団体交渉に応じなかったのであるから、かかるY会社の対応は、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるというべきである。
   イ X組合は、組合員参加型団体交渉の労使慣行の不遵守が組合の存在を無視し弱体化させるというが、組合員参加型団体交渉の労使慣行の不遵守のほか、仮にX組合が主張する労使慣行の不遵守があったとしても、当該労使慣行の不遵守自体はいわばY会社とX組合間のルール違反にとどまるのであって、それがX組合の結成及び運営の自主性に対し具体的にどのような影響を与えたかが明らかでないから、上記労使慣行の不遵守がX組合の弱体化させる行為であるとはいえないし、また、Y会社にX組合の弱体化を意図した支配介入意思もあったとはいえない。
争点5 署名活動に対する抗議及び中止の要請について
     平成16年5月から6月にかけて、本件病院周辺等において、市民らに対し同年度の定期昇給の実施及び同年度6月期末手当に関する要求実現を内容とする署名活動を実施したが、Y会社はX組合に対し、署名活動に抗議し、その中止を求めた。しかし、署名簿は、交渉の経緯及びX組合の要求等を記載したものであり、Y会社を誹謗中傷するものでもないこと、署名活動は本件病院の敷地の外において行われ、その方法も特に問題が認められないこと等からすると、X組合の署名活動は正当な組合活動であるというべきであり、Y会社が、上記署名活動に抗議し、その中止を求めたことは、X組合の正当な組合活動を妨害し、X組合の自主性(独立性)を阻害する行為であり、また、上記署名活動に抗議し、中止を求める合理的な理由も認められないから、当該署名活動に抗議し、中止を求めたことは労組法7条3号の支配介入に当たるというべきである。
争点6 救済方法について
   ア 不当労働行為が成立する場合の救済方法の内容について、労組法は、具体的な規定をしておらず、不当労働行為が成立する場合にいかなる救済方法を講じるかは、労働委員会の裁量により個々の事案に応じた適切な是正措置を決定することに委ねたものと解されるが、その裁量権は無制限ではないから、労働委員会がその裁量権を逸脱し又はこれを濫用した場合には、当該命令は取消しを免れないと解される。
     中労委は、組合員参加型団体交渉手続の変更、昭和52、53年協約の解約、平成16年度春闘要求について、Y会社が組合員参加型団体交渉に応じなかったことが労組法7条3号の団体交渉拒否に、Y会社が、X組合の署名活動に抗議し、その中止を求めたことが労組法7条3号の支配介入にそれぞれ当たると認定して、Y会社にたいし、これらの不当労働行為について文書の交付を命じている。
     Y会社は、上記組合員参加型団体交渉には応じていないものの、X組合に対し、適正人数の交渉担当者による団体交渉、事務折衝には応じる旨述べており、Y会社が団体交渉に全く応じない姿勢ではなかったことから、中労委がY会社に文書の掲示まで命ずると、Y会社の反発を招き、Y会社とX組合の労使関係がかえって不安定になるおそれがあると推察されることからすると、中労委がY会社に対し文書の交付を命じたことが、裁量権の逸脱、濫用に当たるとはいえない。
   イ Y会社が団体交渉に全く応じない姿勢ではないことからすると、Y会社が、X組合の存在及び組合活動を嫌悪し、参加人の組合活動を排撃することに徹しているとまではいえないし、また、Y会社が本件初審申立てにかかる審査手続について宣伝したことは、上記組合員参加型団体交渉の拒否、X組合の署名活動に対する抗議及び中止要求とは別個の行為であるから、当該宣伝を理由として、中労委が文書の掲示を命じなかったことが裁量権を逸脱するものであるとはいえないというべきである。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
北海道労委平成16年(不)第7号 一部救済 平成17年8月31日
中労委平成17年(不再)第61号 一部変更 平成18年9月20日
 
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