労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 熊谷海事(くまがいかいじ)工業
事件番号 広島高裁平成20年(行コ)第24号
控訴人 熊谷海事工業株式会社
控訴人補助参加人 Z
被控訴人 広島県(処分行政庁:広島県労働委員会)
被控訴人補助参加人 全日本海員組合
被控訴人参加人 国土交通大臣
判決年月日 平成21年9月29日
判決区分 全部取消・却下
重要度  
事件概要  本件は、第1事件については、(1)Y会社がZとの間でY会社所有の船舶である飛竜丸及び八雲丸に関する裸傭船契約及び定期傭船契約の締結を行った(Y会社が船体のみをZに賃貸し、その上で、Y会社がZから船体と船員(非X組合組合員)を賃借した。)ことが労組法7条3号の不当労働行為に、(2)Y会社がX組合との間での飛竜丸、八雲丸等の運行等に関する団体交渉を拒否したことが労組法7条2号の不当労働行為に該当するか否か、また、第2事件については、(3)Y会社がX組合との労働協約の更新を拒否したことが労組法7条3号の不当労働行為に、(4)Y会社が、その所有する船舶である八代丸を十分に稼働させず、同船の乗組員に精神的・経済的な不利益を与えたことが労組法7条1号の不当労働行為に該当するか否かが争われた事案である。
 中国船員地労委は、第1事件については、①飛竜丸及び八雲丸の使用にはX組合組合員を乗組員とすること、②団交に誠実に応じること、③文書手交、④履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(平成18年12月22日、平成18年第1号命令。以下「本件1号命令」という。)。また、同地労委は、第2事件については、①労働協約締結に関する実質的かつ公正な団体交渉が行われ、具体的な結論が出されるまでは、従前の労働協約に従って、X組合との労使関係を営むこと、②バックペイ、③バックペイの対象となる八代丸の乗組員が原職復帰できるよう真摯に団交を行うべきこと、④文書手交、⑤履行報告を命じ、その他の申立てを棄却した(平成19年12月11日、平成18年第2号命令。以下「本件2号命令」という。)。
 これらを不服としてY会社が訴訟を提起したところ、広島地裁は、第2事件に係る(3)の取消しを求める部分については、X1及びX2がY会社を退職したことにより、Y会社に対する拘束力は失われ、訴えの利益が欠けるとして却下し、その余の請求を棄却した。
 この第一審判決を不服として、Y会社が提起したのが本件控訴である。
 本件は、中国船地労委による命令交付後、X組合の組合員すべてがY会社を退職したことから訴えの利益が問題とされた点に特徴がある事案である。
判決主文 1 原判決を取り消す。
2 控訴人の訴えをいずれも却下する。
判決の要旨 (1)本件では、本件各救済命令発令時点においては、Y会社にX組合の組合員たる乗組員が存在したが、現時点においては、Y会社には、X組合の組合員たる乗組員は存在せず、乗組員という職種の者も存在しない上、組合員がY会社の従業員としての地位を争っているなどの事情も認めることはできない。このような事情の変更が、救済命令の履行を客観的にみて不可能とする事情、又は救済命令の趣旨、目的からして救済命令を履行することについて、もはや救済の方法としての実質的意義を失わせるような事情となり、救済命令の基礎を失わせ、ひいては拘束力を失わせると言えるかは、個々の命令の内容に即して判断すべきである。
(2)そこで、本件についてみるに、本件1号命令の主文第1項は、飛竜丸及び八雲丸のZへの各裸傭船契約等の一連の行為がX組合に対する支配介入に該当することを前提として、Y会社に対し、飛竜丸及び八雲丸にX組合所属の組合員を乗り組ませることを命じるものであるが、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在せず、乗組員という職種の者も存在しない上、組合員がY会社の従業員としての地位を争っているなどの事情も認めることはできないから、このような事情の下においては、Y会社が飛竜丸及び八雲丸にX組合所属の組合員を乗り組ませることは不可能であり、本件1号命令の主文第1項を履行することは客観的にみて不可能であると言わざるを得ず、本件1号命令の主文第1項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である。
   本件1号命令の主文第2項は、Y会社のX組合に対する団体交渉拒否を前提として、Y会社に誠実に団体交渉に応じるよう命じるものである。ところで、労組法の予定する団体交渉とは、労使関係にある当事者を前提として、このような当事者が継続的な労使関係の維持改善を目的として協議を行うものであり、団体交渉拒否の不当労働行為に対する救済命令としての本件1号命令の主文第2項は、控訴人にこのような団体交渉に応じるべき公法上の義務を課したものと解される。そこにおいて、団体交渉の一方当事者であるX組合に、Y会社に現に雇用されている組合員が存在せず、かつ、組合員がY会社の従業員としての地位を争っているなどの事情もない場合には、X組合とY会社との間で継続的な労使関係の維持改善を目的とする協議を行うことは客観的にみて不可能であり、Y会社に団体交渉に応じるよう命じる救済命令は、その趣旨、目的からして救済方法としての意義が失われたというべきである。したがって、Y会社に団体交渉に応じるよう命じる本件1号命令の主文第2項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である。
   本件1号命令の主文第3項は、Y会社がX組合に対する支配介入及び団体交渉拒否を今後繰り返さない旨記載した文書の手交を命じるものである。上記のような文書の手交は物理的には不可能ではない。ところで、支配介入及び団体交渉拒否の不当労働行為に対する救済命令としての文書手交命令は、Y会社がX組合に対し、上記各不当労働行為が認定されたこと、及び今後同様の行為を繰り返さないよう表明することにより、上記各不当労働行為によって生じたX組合又はその所属組合員の権利侵害状態を除去、是正し、労組法の予定する正常な労使関係秩序を回復、確保するものと解される。しかしながら、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在しなくなった以上、Y会社において飛竜丸及び八雲丸にX組合所属の組合員を乗り組ませることや、X組合とY会社との間で継続的な労使関係の維持改善を目的とする協議を行うことは、いずれも客観的にみて不可能であるから、労組法の予定する正常な労使関係秩序を回復、確保する余地はなく、その意味において、Y会社による文書の手交も、もはやその意義を失っていると言わざるを得ず、Y会社がX組合に対する支配介入及び団体交渉拒否を今後繰り返さない旨記載した文書の手交を命じる本件1号命令の主文第3項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である。
(3)本件2号命令の主文第1項は、Y会社がX組合との間で平成18年度において本件協約の更新を拒否した行為が支配介入に該当することを前提として、Y会社に対して本件協約に関する団体交渉が実質的かつ公正に行われ本件協約の締結に関する具体的な結論が出されるまでは、X組合と従前の本件協約の内容に従った労使関係を営むことを命じるものである。
   ところで、労使関係においては、使用者とそれに雇用される労働者の存在が前提となるところ、本件においては、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在せず、乗組員という職種の者も存在しない上、組合員がY会社の従業員としての地位を争っているなどの事情も認めることはできないのであるから、このような事情の下においては、Y会社とX組合とにおいて従前の本件協約の内容に従った労使関係を営むことは客観的にみて不可能であると言わざるを得ず、本件2号命令の主文第1項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である。
   本件2号命令の主文第2項は、Y会社が八代丸を稼働させないことが組合員たる乗組員に対する不利益扱いであることを前提として、特定の組合員2名に対して特別手当の支払を命じるものである。上記主文第2項は、金銭の支払を内容とするものであって、その履行は客観的にみて不可能であるとは言えない。しかしながら、救済命令は、不当労働行為を事実上是正することによって労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るものでなければならず、また、不当労働行為による被害の救済としての性質を持つものでなければならない。この観点からみると、本件においては、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在せず、乗組員という職種の者も存在しない上、組合員が控訴人の従業員としての地位を争っているなどの事情も認めることはできないのであるから、上記主文第2項は、被害の救済としての性質を持つものではあるものの、労組法の予定する正常な労使関係秩序を回復、確保する余地はなく、その意味において、もはやその意義を失っていると言わざるを得ない。したがって、Y会社が八代丸を稼働させないことが組合員たる乗組員に対する不利益扱いであることを前提として、特定の組合員2名に対して特別手当の支払を命じる本件2号命令の主文第2項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である(もっとも、本件2号命令の主文第2項が、その基礎を失い拘束力を失ったとしても、特別手当の支払を受けるべき組合員個人がY会社に対してその支払を別途請求し得ることは言うまでもない。)。
   本件2号命令の主文第3項は、Y会社が八代丸を稼働させないことが組合員たる乗組員に対する不利益扱いであることを前提として、特定の組合員らがそれぞれ船長ないし機関長として八代丸を運航して就労することが可能となるように、真摯に団体交渉するよう命じるものである。しかしながら、その特定の組合員は既にY会社を退職しており、Y会社の従業員としての地位を争っているなどの事情も認められない上、八代丸は、平成20年10月17日、売却されたことにより、現時点では履行が客観的にみて不可能となったものというべきであるから、本件2号命令の主文第3項は、その基礎を失い拘東力を失ったと解するのが相当であり、被控訴人も、その点は認めている。
   本件2号命令の主文第4項は、控訴人が行った支配介入及び不利益取扱いの各不当労働行為を今後繰り返さない旨記載した文書の手交を命じるものである。これについては、上記のような文書の手交は物理的には不可能ではないものの、支配介入及び不利益扱いの各不当労働行為に対する救済命令としての文書手交命令は、Y会社がX組合に対し、上記各不当労働行為が認定されたこと、及び今後同様の行為を繰り返さないよう表明することにより、上記各不当労働行為によって生じたX組合又はその所属組合員の権利侵害状態を除去、是正し、労組法の予定する正常な労使関係秩序を回復、確保するものと解されるところ、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在せず、乗組員という職種の者も存在しない上、組合員がY会社の従業員としての地位を争っているなどの事情も認めることはできないのであるから、このような事情の下においては、Y会社とX組合とにおいて継続的な労使関係を営むことは客観的にみて不可能であり、Y会社にはX組合の組合員たる乗組員は存在しなくなった以上、X組合の組合員たる乗組員に対するY会社の不利益扱いが問題となることもないから、その意味において、Y会社による文書の手交は、もはやその意義を失っていると言わざるを得ず、Y会社がX組合に対する支配介入及び不利益扱いを今後繰り返さない旨記載した文書の手交を命じる本件2号命令の主文第4項は、その基礎を失い拘束力を失ったと解するのが相当である。
(4)以上によれば、本件各救済命令は、いずれもその基礎を失い、拘束力を失ったと解するのが相当である。したがって、Y会社は、本件各救済命令に従うべき義務はなくなっているのであるから、救済命令の取消しを求める法律上の利益(訴えの利益)は存在しないというべきであり、訴えは却下されることになる。よって、これと結論を異にする原判決を取り消し、主文のとおり判決する。
その他  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中国船員地労委平成18年第1号 一部救済 平成18年12月22日
中国船員地労委平成18年第2号 一部救済 平成19年12月11日
広島地裁平成19年(行ウ)第5号(第1事件)・平成20年(行ウ)第1号(第2事件) 棄却・却下 平成20年9月3日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 上告受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ツ)第45号・平成22年(行ヒ)第45号 上告棄却・上告不受理 平成24年2月3日
最高裁平成22年(行ヒ)第46号 一部破棄差戻し 平成24年4月27日
広島高裁平成24年(行コ)第9号 棄却 平成25年4月18日
最高裁平成25年(行ヒ)第313号 上告不受理 平成25年9月19日
 
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