労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  大谷学園 
事件番号  東京地裁平成21年(行ウ)第429号 
原告  学校法人大谷学園 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
補助参加人  ユニオンちれん
ユニオンちれん大谷学園支部 
判決年月日  平成22年10月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 学園が、①平成19年1月20日付けで支部組合が団体交渉を申し入れた退職金問題及び駐車場問題に関し、18年度春闘で取下済みであるとして団体交渉を拒否したこと、②19年4月25日付けで支部組合及び本部組合連名による団体交渉申入れについて、上記問題は交渉事項ではなく、また、学園籍以外の者の交渉参加はルールに反するなどとして団体交渉を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審神奈川県労委は、上記②について不当労働行為と認め、学園に対し、両組合との誠実団交応諾と文書手交を命じ、その余の救済申立を棄却した。
 学園は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委はこれを棄却した(ただし、初審命令の認容部分の主文1項及び2項を、「19年4月25日付け申入れに係る団体交渉」である旨に訂正)。
 本件は、これを不服として学園が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は学園の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の要旨  1 争点1:両組合の不当労働行為救済申立資格と救済申立権の濫用の有無
(1) 本部組合について
 労組法5条1項の資格審査は、労働組合が提出した組合規約その他の証拠に基づいて行われるところ、同条2項の要件に関する審査は、同項の文言に照らし、組合規約に関する形式審査であり、現実の組合運営にまで立ち入って審査することは必要ないものと解される。そうすると、本部組合において同項5号及び7号に規定されている規約事項が行われていないことが当然に本部組合の不当労働行為救済の申立資格を否定する事由になるものではない。そして、本部組合については、同項所定の規約事項を定めた組合規約を制定していること、労組法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を得て法人登記をしていることが認められ、他に申立資格を疑わせる事情をうかがわせる証拠はない。
 不当労働行為救済の申立資格を有している本部組合が、その組合運営においてその組合規約に定めることを遵守していないとしても、それは本部組合の内部問題であり、不当労働行為救済申立てを含む労組法上認められる本部組合の対外的な組合活動における第三者等との関係においては、特段の事情のない限り、当該内部問題が組合活動を禁止し又は制約する事由になるとは考え難い。
(2) 支部組合について
 上記(1)で説示したのと同じ理由により、支部組合に不当労働行為救済申立資格がないとはいえず、また、支部組合が行った本件初審事件申立ては、申立権の濫用に当たるとはいえない。
2 争点2:平成19年4月25日付け要求書による本件団交申入れに対する本件団交拒否の労組法7条2号該当性
(1) 支部組合の社団性の有無(争点2の1)
 ア ①支部組合は、本部組合の下部組織であるが、構成員の変更とは無関係に存続する団体としての実態を有し、独自に制定した支部規約において構成員の資格、代表の方法、多数決原則による総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点を定め、支部規約に則り、上部組織とは独立した組織運営、財産管理を行っている団体であること、②支部組合は、中労委において、労組法2条及び5条2項の規定に適合する労働組合であると認められていることが認められ、これらの事実によれば、支部組合は、権利能力なき社団としての実体を有する、労組法所定の労働組合であると解するのが相当である。
 イ ①本部組合は、構成員が労働者個人である労働組合で、その内部においてそれ自体独自の労働組合といえる下部組織を有するいわゆる単一組合と呼ばれる形態のものであり、支部組合は、本部組合の構成員のうち学園が設置する高等学校の教職員らである者を構成員とするものである。そうすると、支部組合は、本部組合の単なる部分組織ではなく、それ自体権利能力なき社団に当たる独自の労働組合であるということができる。②本部組合が定める支部運営規定に労組法5条2項の定めがないこと、及び支部運営規定と異なる会計運営がされていることは、直ちに支部組合の権利能力なき社団としての要件充足性を否定するものではない。③支部組合の住所地に重大な矛盾があることも、直ちに支部組合の権利能力なき社団としての要件充足性を否定するものではない。
(2) 退職金及び駐車場に関する要求事項についての本件各問題は義務的団交事項であるか(争点2の2)
 ア 退職金問題について
  a 退職金は、賃金の後払い的性格を有するものであり、労働契約の内容として労働協約や就業規則によって退職金制度を設け、また、支給基準を定めることができるものである。本件団交申入れにおける両組合の退職金問題についての要求内容は、退職金の増額を求める内容のものであると認められる。そうすると、学園における退職金制度及び退職金に関する問題は、労働条件に関する問題であり、義務的団交事項に当たる。
  b ①県私学退職基金財団を通じて支払い、また、日本私立学校振興・共済事業団に加盟して共済年金を支払うこととしている学園の退職金制度を変更する予定がないことは、退職金制度及び退職金に関する問題が義務的団交事項であることを否定する理由にはならず、本件団交申入れにおける退職金問題は、既に解決済みの要求事項を再度申し立てたものでない。②退職金制度は、創設いかんを含めて使用者の裁量に委ねられていることは、退職金問題が労働条件に関する問題であって義務的団交事項であること自体を否定する根拠となるものではない。
 イ 駐車場問題について
  a 学園においては、自動車通勤をする教職員についても、一律に定期券購入額を通勤手当として支払っているが、A校地に通う自動車通勤教職員には無償の駐車場が提供されていたのに対し、それ以外の校地に通う自動車通勤教職員は駐車場使用料金を自己負担しているという違いがある。これを実質的にみると、同じ自動車通勤をする教職員間における通勤費用の補填範囲を異にしているといえるものであり、本件団交申入れにおける両組合の駐車場問題についての是正要求は、当該教職員の労働条件に関する問題の是正を求めるものということができる。したがって、駐車場問題は、労働条件に関する問題であり、義務的団交事項に当たる。
  b 学園は、A校地における自動車通勤教職員の駐車場利用が有償となったので、その他の校地の自動車通勤教職員との間の不平等取扱いは存在せず、駐車場問題は団交事項とはなり得ない旨主張するが、本件団交申入れにおける両組合の駐車場問題についての要求内容は、自動車通勤教職員間の不平等の解消方法として、A校地の駐車場の有償化ではなく、他の校地の駐車場の無償化を求めるものであるから、A校地の駐車場の無償提供の廃止がされたことにより、本件団交申入れにおける駐車場問題が解決したとはいえない。
(3) 本件団交申入れにおける交渉事項である本件各問題が平成18年6月22日付け本件取下げ合意により決着済みであるか(争点2の3)
 学園は、本件各問題は、本件取下げ合意によって取り下げられて既に決着済みのものを再度交渉事項とする団交申入れであり、新たな団交の申入れではないから、本件団交拒否には正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、①平成3年度から春闘要求における要求事項とされた退職金問題及び平成13年度から春闘要求における要求事項とされた駐車場問題は、いずれも、各年度の春闘に関する団交において終局的に解決せずに、毎年繰り返して春闘の要求事項とされていたものであり、本件取下げの合意をした平成18年度春闘要求においても、終局的解決に至って取下げがされたものではないことが認められる。そして、②学園の団交拒否の理由をみると、本件各問題が終局的に解決したことをいうものではなく、同年度春闘要求においては本件取下げ合意により本件各問題が団交の交渉事項にならないというにとどまるものであるから、両組合はもとより、学園自身も、本件取下げ合意によって、本件各問題が平成19年度以降も団交議題とならない決着済みの問題であると認識していたものではないと認められ、本件取下げ合意は、平成18年度春闘要求における本件各問題についての要求事項を単純に取り下げることを合意したものというべきである。以上に加え、③本件団交申入れは、平成19年度に入ってからの団交申入れであり、同年度春闘要求とは別に行われているものであることを併せ考えると、本件団交申入れは、本件各問題を新たに交渉事項とした団交申入れであると認めるのが相当である。
(4) 学園籍以外の者の出席を理由とする団交拒否の正当性(争点2の4)
 ア 平成2年和解の際に本件団交ルール合意が成立したか
 ①平成2年和解において、本件協定書中の団交の方法に関する条項には、団交出席者について学園籍の者に限定することは記載されておらず、本件協定書中の他の条項及び本件確認書中の条項にも、その趣旨をうかがわせる記載はないことからすると、平成2年和解そのものは、本件団交ルール(学園籍のある教職員同士で団交を行うこと)を前提としたものということはできない。また、②平成2年和解は、本部組合のX1書記長が両組合を代表して折衝した結果成立したものであり、平成2年和解の当事者は学園と支部組合であるにもかかわらず、本件協定書及び本件確認書には、学園代表者及び支部組合の執行委員長のみならず、本部組合の執行委員長も記名押印していることからしても、平成2年和解の際に、今後の学園と行う団交において、本部組合が関与しないことが前提となり、又は別途合意されていたとの事実は、到底認定するには至らない。
 イ 遅くとも平成15年4月には本件団交ルール合意が成立し、又は平成19年までの17年以上にわたる団交経緯を通して本件団交ルール慣行が確立していたか
 平成2年和解成立以降、約17年間にわたって、春闘要求に係る学園との団交は、支部組合との間のみで行われてきたという事実状態が継続したことが認められるが、平成15年4月までの間に、学園と支部組合との間で、明示的に本件団交ルール合意をしたことを認め得る証拠はなく、また、黙示的に本件団交ルール合意が成立したことをうかがわせる事実関係を認め得る証拠もない。
 上記事実状態が継続した主たる理由は、学園に対する春闘要求を行ったのが支部組合のみであったことに尽きるものであるところ、学園が、これを踏まえて、団交の出席者が学園籍を有する者に限定されるものと信じたとしても、それが直ちに法的に保護されるべき合理的な期待とはいえないし、同じ期待を支部組合も持っていたことがうかがわせる事情を認め得る証拠はない。したがって、学園と支部組合との間において、本件団交ルールが慣行化して確立したものとは評価できない。
3 争点3:救済内容の相当性
(1) 本件命令のうち訂正部分の1項は、原状回復を超えた将来の団交の在り方をも内容とする救済命令であり、労働委員会の裁量権を逸脱したものであるか
 労働委員会は、不当労働行為の救済に際し、当該不当労働行為が過去にされた不当労働行為と同種又は類似のものであり、将来も、その使用者がそのような不当労働行為を繰り返すおそれがあると判断したときは、当該不当労働行為の救済にとどまらず、その労働委員会の裁量権の行使として、当該種類の不当労働行為を将来にわたって禁止する不作為命令を発することができるものと解される。
 学園は、退職金問題については平成3年度から、駐車場問題については平成13年度から、それぞれ平成19年度まで継続的に団交の要求事項とされていたが、いずれの問題についても労使間で必ずしも実質的な協議がなされなかったこと、学園は、本件団交申入れに対し、新たに団交の出席者につき学園籍の者に限定されるべきである旨主張して本件団交拒否に至っていることが認められるところ、中労委も、これらの経緯を認定し、このことを踏まえて、今後、学園と両組合との間で本件団交申入れにおける交渉事項について、実質的な団交が持たれるべく、本件命令を発したものと解される。
 そうすると、本件団交申入れに係る不当労働行為である本件団交拒否に対する救済としては、本件団交申入れについて、本件団交拒否における団交拒否理由と同じ理由で団交拒否をしてはならないことを命ずることには特段の問題はないというべきであり、これが将来にわたって不作為を命ずるとしても、上記解釈に照らして、許容される範囲内のものということができる。
(2) 救済命令の内容が適切な措置であることについて理由が付されていないか
 上記(1)の説示に照らせば、本件命令のうち訂正部分の1項で命じていることは適切なものである。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成19年(不)第6号・第19号 一部救済 平成20年7月15日
中労委平成20年(不再)第26号 棄却(一部訂正) 平成21年7月1日
 
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