労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  平成タクシー 
事件番号  広島高裁平成25年(行コ)26号  
控訴人兼被控訴人  有限会社平成タクシー(「会社」) 
控訴人兼被控訴人  広島県(処分行政庁・広島県労働委員会) 
1審被告補助参加人  スクラムユニオン・ひろしま(「組合」) 
判決年月日  平成26年9月10日 
判決区分  原判決一部取消 
重要度   
事件概要  1 ①ビラ配布を理由として懲戒処分を行ったこと、②組合員を異動させ、乗務する車種を変更したこと、③B2部長が分会組合員9名と話し合い、「不当労働行為の救済申し立てを取り下げてもらえませんか?」などと書かれた文書を示し、また発言したこと、④B1社長が、出勤してきた副分会長A 1を乗務させなかったこと、⑤同日、A1が客から直接依頼を受けたこと等を理由に処分を行ったこと及び乗務させない状態が続いていること、⑥A3を乗務させない状態が続いていること、⑦B1社長が団体交渉に出席せず、また、団体交渉の合意事項を文書化せず、履行していないことが、不当労働行為に当たるとして、広島県労委に救済申立てがあった事件である。
2 広島県労委は、会社に対し、①組合員7人に対する懲戒処分の取り消し及び不利益相当分の給与相当額等の支払(本件バックペイ1)、②組合員であること等を理由とする不利益取扱や正当な組合活動の妨害などの支配介入の禁止、③A1及びA3に対する乗務拒否による同人らの不利益相当分の給与相当額等の支払い(本件バックペイ2)、また本件命令交付の翌日からA3が乗務できるまでについては、同人が受け取るはずであった給与相当額の支払い(本件バックペイ3)、④文書の交付・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した(本件命令)。会社は、これを不服として広島地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件命令主文について、①A1、A2、A3、A4及びA5に対する懲戒処分の取消しを命じる部分の取消しを求める訴えを却下し、②A7以外の者の本件バックペイ1を命じる部分のうち、別訴高裁判決で確定した金員支払請求権で定まる額を超える金員の支払を命じる部分を取り消し、③A7以外の者の本件バックペイ1を命じる部分のうち、前項により取り消した残余の部分の取消しを求める訴えを却下し、④A7の本件バックペイ1を命じる部分の取消しを求める訴えを却下し、⑤本件バックペイ3を命じる部分を取り消し、⑥会社のその余の請求を棄却した。
3 本件は、これを不服として、会社及び広島県が広島高裁に控訴した事件である。  
判決主文  1(1) 1審被告の控訴に基づき、原判決主文1項ないし5項を取り消す。
 (2) 上記取消部分にかかる1審原告の請求をいずれも棄却する。
2 1審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加により生じた費用を含む。)は、第1、2審を通じ1審原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点1について
 本件救済命令主文1項のうち、既に会社を退職した組合員5名(A1、A2、A3、A4、A5)に対する本件懲戒処分の取消しを命じる部分について、取消しを求める訴えの利益の有無等
(1) 訴えの利益
 救済命令の発令後、事情変更があり、救済命令の履行が客観的にみて不可能になった場合や、救済命令の内容が他の方法によって実現され、その目的が達せられた場合、救済命令は、その基礎を失ってその拘束力を失い、その結果、原則として訴えの利益も失われることになる。 しかし、本件において、組合員が会社を退職したとしても、本件懲戒処分の取消しが客観的に不可能となるわけではない。また、 組合員の退職によって、組合員個人と使用者の間の労使関係秩序については回復・確保の余地がなくなるとしても、組合と使用者の間の集団的労使関係秩序の回復・確保を図る必要が直ちになくなるものとは解されず、退職によって本件救済命令主文1項の内容が実現され目的が達せられたということはできない。本件救済命令主文1項の取消しを求める訴えの利益は存在するというべきである。
(2) 本案についての判断
本件懲戒処分は、労働組合法7条1号、同条3号の不当労働行為に当たり、本件懲戒処分の取消しを命じる部分は相当であると判断する。
2 争点2について
 本件バックペイ1の金額と別件民事確定判決で確定した金員支払請求権で定まる金額が重複する範囲において、取消しを求める訴えの利益の有無
(1) 救済命令の目的は、不当労働行為によって損なわれた労働者の個人的・財産的価値の回復を図ることだけにあるのではなく、組合を含めた正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復・確保を図ることにもあること、したがって、救済命令におけるバックペイの賦課は上記目的に基づく公法上の義務であって、民事判決が命じる私法上の義務とは異なるとされていること等を考慮すると、確定した民事判決に基づいて私法上の義務が履行されたとしても、それによって直ちに公法上の義務を課した救済命令の目的が達せられたとはいえず、民事判決に基づく支払によってバックペイが履行されたと評価できる場合でも、取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である。
(2) 本件バックペイ1の支払を命じる部分について、別件民事確定判決で確定した認容額と重複する範囲において取消しを求める訴えの利益が失われたものとは認められず、当該部分の訴えの利益はこれを肯定すべきである。
3 争点3及び争点4について
 平成23年1月15日以降のA1に対する乗務拒否及び同月4日以降のA3に対する乗務拒否(本件乗務拒否)の不当労働行為該当性
ア 乗務拒否の態様
 A1及びA3にはタクシー乗務を行う意思があったにもかかわらず、会社が正当な理由なく乗務拒否したために、各々タクシー乗務に就くことができなかったと認められる。
イ 本件乗務拒否の不当労働行為該当性
 会社では乗務員の給与が歩合給とされているから、A1及びA3に対する本件乗務拒否は労働組合法7条1号の「不利益な取扱い」に該当する。また、A1及びA3は組合の組合員であり、A1は本件分会で副分会長を務めていた者であるところ、 会社の本件乗務拒否は、A1及びA3が本件分会の組合員であることを理由として不利益を被らせるだけでなく、本件分会の組合活動自体を萎縮させる効果をも狙ったとも推認される。
ウ 出頭要請文書の送付によって本件乗務拒否による不当労働行為が解消されるか
 組合は〔出頭要請文書の送付のあった同時期に〕本件事件の救済命令申立てをしており、同手続において、本件乗務拒否についても組合に対する不当労働行為と主張していたことが認められる。会社がA1及びA3に対する乗務拒否を解消しようとするのであれば、組合に対してその旨の連絡を行うべきであり、また、会社もそのことは認識していたと推認される。A1及びA3個人に対する出勤要請文書が送付されたからといって、そのことのみでA1及びA3に対する乗務拒否が解消されたと認めることはできない。
4 争点5について
 本件救済命令主文1項の救済方法選択に関する適法性
 A1、A2、A3、A4、A5及びA6の6名について、本件バックペイ1の元本額が別件民事確定判決で確定した金員支払請求権の元本額を超えていると認められるところ、本件バックペイ1を支払うよう命じる部分が違法となるかについて検討する。
ア 労働委員会の裁量について
 救済命令の趣旨・目的は、使用者の不当労働行為により生じた事実上の状態を是正することにより、正常な集団的労使関係の迅速な回復、確保を図ることにあると解されるから、救済命令の内容は、私法的な意味での原状回復と同義とは解されず、私法上の権利関係に従った回復措置に限定されるものではない。ただ、救済内容が、実質的に私法上の権利義務の実現と共通する面を有する場合には、その救済の結果について私法上の権利義務との調整が可能であるか、そのかい離の程度が救済命令の目的からして許容される範囲内にある必要はあるというべきであって、調整不可能な上、そのかい離の程度が著しく、救済の目的を超える内容の救済命令は、裁量権の範囲を逸脱したものと評価される。
イ 違法性判断の基準時
 裁量権の逸脱の有無を判断する基準時は、本件救済命令時と解される。本件救済命令の裁量権の逸脱の有無を判断するに当たっては、 〔本件救済命令発令よりも後の〕別件民事確定判決及び同1審判決の内容を前提とすることはできず、本件救済命令時において明らかとなっていた事情を前提とすることになる。
ウ 本件救済命令主文1項の適法性
 本件バックペイ1の元本額と別件民事確定判決で確定した金員支払請求権の元本額が異なる理由は、①無事故手当の扱い、②処分日数の計算方法、③無線配車停止処分の日の損害額算出方法、④A2についての処分日数のうち、療養のため就労不能だった日の扱いの4点である。上記①ないし④の点が従業員らの私法上の権利(本件懲戒処分を原因として民事上請求が認容される給与相当額)にどのような影響を及ぼすかについて、労働委員会が認識、判断することは困難であって、これらが本件救済命令時に明らかであったとはいい難い。また、正常な集団的労使関係の迅速な回復、確保を図るという救済命令の目的からは、上記①ないし④の点が従業員らの私法上の権利にどのような影響を及ぼすかについて、労働委員会が時間を掛けて審理を行うことが相当であったともいいきれない。本件救済命令時において明らかとなっていた事情に基づく限り、本件バックペイ1の元本額と別件民事確定判決で確定した金員支払請求権の元本額のかい離の程度は、救済命令の目的からして許容される範囲内にあるというべきであり、違法性はないというべきである。
5 争点6について
 本件救済命令主文3項の救済方法選択に関する適法性
(1) 本件バックペイ2について
ア 本件バックペイ2は、本件乗務拒否が不当労働行為に該当することを踏まえ、集団的労使関係を正常なものに回復する目的で発令されたものである。そして、本件バックペイ2の終期については、処分行政庁の勧告に基づいて、本件乗務拒否の状態を解消するため、会社とA1及びA3の間で、平成23年5月11日に団交を予定したにもかかわらず、同日、組合、A1及びA3が団交に応じなかったことを踏まえ、同日としたものである。
イ 他方、本件乗務拒否の経緯、内容からすれは、A1及びA3は、本件乗務拒否によって得られるはずだった給与相当額について、民事上の給与請求権を行使できるものと考えられる。そして、同年2月以降に会社がA1及びA3に対して出勤要請文書を送付したことによっても、本件乗務拒否は解消されないことからすれば、本件バックペイの終期である同年5月11日まで、給与相当額を請求できると考えられる。そうすると、本件バックペイ2と上記給与請求権の間に著しいかい離があるとは認められず、救済命令の発令に裁量権の逸脱の違法があるとも認められない。
ウ これに対し、会社は、出勤要請文書を送付した時点で会社の帰責事由が消滅し、以降は民法536条2項が適用されず、給与請求権が発生しない旨を主張するが、乗務拒否を解消するために出勤要請文書を送付したとは認め難いことなどの事情から、同日以降も本件乗務拒否による不当労働行為は解消されるといえない。会社の主張は採用できない。
エ さらに、会社は、明確にA1及びA3の就労を拒否したことはないにもかかわらず、同人らは履行の提供を行っていない旨を主張する。しかし、A1及びA3は平成23年1月に複数回会社に出勤したにもかかわらず、会社がタクシー乗務を拒否したことにより、以後、A1及びA3による履行の提供が不要となったということができる。会社が出勤要請文書を送付したことによって本件乗務拒否による不当労働行為が解消されたといえないことに照らせば、A1及びA3による履行の提供もやはり不要であることに変わりないというべきである。よって、会社の主張は採用できない。
(2) 本件バックペイ3について
ア 私法上の権利とのかい離の程度を検討するに当たっては、命令交付の翌日以降においてA3の給与請求権の有無が問題となるところ、この給与請求権については、現時点においても民事訴訟手続によって権利の内容が確定しているわけでない。そうすると、命令交付の翌日以降においてA3の給与請求権は、本件救済命令において明らかになっていた事情に基づいてもかかる権利を認める余地がないと判断できる場合に限り、権利の不存在を前提として本件バックペイ3とのかい離の程度を検討できるにすぎないというべきである。
イ A3の欠勤は会社による本件乗務拒否で始まっているから、命令交付の翌日以降のA3の給与請求権の有無は、同時点で会社による帰責事由が消減していたか否かによって決せられる。会社によるA3に対する乗務拒否が解消したと認められないことは先に判断したとおりである。本件救済命令時に明らかになっていた事情を前提とすれば、会社の帰責事由が消滅していたと認めるに足りる事情はなく、命令交付の翌日以降もA3の給与請求権を認める余地がないとはいえない。平成23年5月11日に予定されていた団体交渉に、組合、A1及びA3が出席せず、その後も出勤しなかったという事情はあるものの、このことによって直ちにA3に乗務の意思がなかったことまで推認するには足りない。また、上記団体交渉は処分行政庁の勧告に基づいて予定されたものであるから、会社が上記団体交渉に応じる準備をしていたとしても、そのことをもって会社から積極的な乗務拒否の解消のための措置が取られたとまで認めることはできない。平成23年5月11日に予定されていた団体交渉に応じなかったことによって、会社の帰責事由が消滅したとまでいえず、以後のA3の給与請求権を認める余地がないとまではいえない。
ウ 以上によれば、本件バックペイ3の支払期間を命令交付の翌日から同人が乗務できるまでの期間とすることは救済命令の目的に沿うものであり、そして、命令交付の翌日以降もA3の給与請求権が認められる余地がないとはいえない。そうすると、本件救済命令主文3項の内容は救済の目的を超えているとは認められず、本件バックペイ3と上記給与請求権の間に著しいかい離もないから、本件救済命令主文3項の発令に裁量権の逸脱の違法があるとは認められない。
第5 結論
 広島県の控訴に基づいて原判決主文1項ないし5項を取り消し、上記取消しにかかる会社の請求を棄却し、会社の控訴は理由がないから棄却する  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島県労委平成23年(不)第1号 一部救済 平成24年4月3日
広島地裁平成24年(行ク)第18号 緊急命令申立の一部認容 平成25年9月4日
広島地裁平成24年(行ウ)第20号 一部取消・却下・棄却 平成25年9月4日
広島高裁平成26年(行サ)10号 上告却下 平成26年11月28日
 
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