労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成27年(行ウ)第668号
全日本手をつなぐ育成会不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  社会福祉法人X(「法人」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会(「中労委」)) 
被告補助参加人  ユニオンZ(「組合」) 
判決年月日  平成28年10月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、① 組合員A1の事務局長解任等を議題とする団体交渉における法人の対応、② 法人が労働協約たる団体交渉議事録の破棄を通告したこと、③ 法人が組合員A3に対して雇止めを通告等したこと、④ 法人が組合員A2に対し労働委員会への出頭を理由とする賃金控除を行ったこと、及び⑤ 法人がA2に対して組合関係者ともに法人事務所へ無断で立ち入りしたなどとしてけん責処分を行ったことがそれぞれ労組法所定の不当労働行為に該当すると主張して、救済を申し立てた事案である。
2 初審東京都労委は、組合主張の事実のうち、前記1①の一部(第8回団体交渉までの法人の対応及び第21回団体交渉後の法人の対応)、④及び⑤について不当労働行為の成立を認めて文書掲示・交付及び履行報告を命じたところ、組合が、同①については救済内容が、同③についてはそもそも不当労働行為の成立を認めなかったことがそれぞれ不服であるとして、再審査を申し立てた。
3 中労委は、法人の対応に対する救済方法を追加し、組合から組合員の労働条件に関する団体交渉の申し入れがあった場合には、誠実に対応しなければならないと命じ、その余の再審査申立てを棄却した(「本件命令」。うち追加した主文第1項を「本件対応命令」)。
4 法人は、本件対応命令部分の取消しを求め、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 救済命令の違法事由について
  不当労働行為の救済方法については、労働委員会においてその内容を選択し決定する裁量権を有するものと解されるが、かかる裁量権については、もとより無制限であるわけではなく、労働委員会による救済命令制度の趣旨、目的に由来する一定の限界が存するのであって、この救済命令は、不当労働行為による被害の救済としての性質をもつものでなければならず、このことから導かれる一定の限界を超えることはできないものであり、裁量権の行使が、不当労働行為救済制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合には、当該命令は違法になるものと解すべきである(最高裁判所昭和52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)。
  そして、使用者が行った不当労働行為が単なる一回性のものでなく、労働委員会による審問終結時には、それが何らかの事情で既に解消されていても、再び繰り返えされるおそれが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会において予めこれを禁止する不作為命令を発するを妨げられないというべきであり(昭和37年判決、最高裁判所昭和47年12月26日第三小法廷判決・裁集民107号561頁参照)、その内容は、使用者の従前の態度等から予測される将来の状況に対応して救済命令を実効的なものとするため、ある程度は抽象的になることもありうるものと解される。
  もっとも、予想される将来の不当労働行為を禁止する救済命令については、行政罰ないし刑事罰をもってその履行確保が図られるものでもあることから、使用者において何が禁止されているのかを判断し得る程度には禁止事項が特定されていることが必要であって、その程度における特定が不可能であれば、不明確さのゆえに違法な救済命令になると解すべきである。
  叙上の点を併せ考慮すれば、予想される将来の不当労働行為を禁止する救済命令の特定性は、命令主文だけで判断すべきものではなく、理由も含めた命令全体から判断すべきものであって、理由中の判断を併せ読むことにより、将来の禁止事項の特定が使用者において何が禁止されているのかを判断し得る程度にされているのであれば、当該命令は違法とはいえないと解すべきである。
2 本件対応命令の内容(当事者の主張(1))について
(1) そこで本件対応命令の内容として、当該主文及び理由を併せ見ることによって、その命ずるところの特定の可否及び特定され得る内容について検討する。
ア まず、本件命令の主文を検討するに、本件対応命令の内容は、「社会福祉法人Xは、今後、ユニオンZから同組合の組合員の労働条件に関する団体交渉の申入れがあった場合には、誠実に対応しなければならない。」とするものであるが、法人が義務付けられた行為は、「組合員の労働条件に関する団体交渉の申入れがあった場合」に「誠実に対応しなければならない」ことであるから、本件対応命令は、組合からの団体交渉の申入れがあれば誠実な団交応諾を命ずるというものではなく、義務的団体交渉事項である組合員の労働条件に関する団体交渉申入れがあった場合に誠実に対応すべきことという労組法7条2号の規定により導かれる当然の事理を命じたにすぎないものというべきである。そうすると、本件対応命令は、法人のいう誠実団交応諾命令とは異なる。
イ そして、本件対応命令が禁止する不当労働行為及びそれに対する救済の具体的な内容については、本件命令の理由によれば、次のとおりである。
(ア) 不当労働行為については、第95号事件の審理対象の不当労働行為について、第8回団交までの法人の対応に限られ、その後の団体交渉に関する法人の対応については、あくまでも適切な救済を決するに際して考慮すべき事情に留まると限定し、そのうえで、組合が法人に団体交渉を申し入れた本件当初議題は、「組合員A1の降格処分について」、「事務局職員の労働条件について」及び「特別監査チーム報告書について」の3点であり、いずれも組合の組合員の労働条件に関する事項であって、義務的団体交渉事項であること、第1回から第4回団交において上記3点について協議が行われ、第2回団交においては団体交渉のルール等に関する交渉内容を文書で残すことが合意されるなど、合意形成に向けた模索をしていたこと、法人において、第4回団交後、それまでの団体交渉の経緯に反し、しかも、法人は、労使間の協議が行き詰まって妥協点を見出させない状況ではなかったにもかかわらず、従前からの議題については妥結の見込みがないことを理由に、新たな議題については団体交渉を実施するが、従前からの議題については協議を打ち切る旨を繰り返し回答し、本件解任については、A1の解任が妥当であったとの結論を述べるのみで、また、本件報告書については、具体的な説明を何らしないこととの事実関係を認定したうえで、組合が7.23要求書及び9.18要求書において重ねて要求していたA1の本件解任や本件報告書の撤回という義務的団体交渉事項について、第5回から第8回団交において実質的に協議していないとの評価をし、このような法人の対応について労組法7条2号所定の不当労働行為を認めている。
(イ) 将来において、不当労働行為が再び繰り返されるおそれについては、本件解任に関しては、A1が既に法人を退職し、労働審判において調停が成立していることから一応の解決を見たといえ、また、本件報告書の内容については、事務局長の交代、就業規則や給与規定の見直し、職員の適正配置等の職場環境の改善が含まれていたところ、法人については、既に清算手続が開始されており、今後法人が清算前に行っていた事業を再開することを窺わせる事情もないとして、本件解任や本件報告書、あるいはこれらの撤回を議題とする団体交渉に応諾する旨を命じることまで必要とは言い難いとして否定した。しかし、その一方で、第21回団交後、「A3の雇用問題やA2に対する賃金カット問題等という、組合の組合員の労働条件という意味においては、第5回から第8回の団体交渉において議論されるべきであった」本件解任及び本件報告書の議題と共通点を有する議題に関し、組合が繰り返し団体交渉を申し入れたにもかかわらず、第20回及び第21回団交における組合側出席者の言動を問題視して開催に当たっての条件や留保を付し、本件再審査結審まで、結局団体交渉を開催していないと認定したうえ、法人が、今後も、組合の組合員の労働条件に関する団体交渉において、第8回団交までの場合と同様の対応に及ぶことも懸念されると判断している。
(ウ) 救済方法として禁止される法人の行為については、第8回団交までの法人の対応という上記(ア)掲記の不当労働行為に該当する事実に関する救済命令として、本件命令発令後に、組合から組合の組合員の労働条件に関する団体交渉の申入れがされた場合において、申入れについて誠実に対応することにより、今後もなお存続する労使関係の正常化を図ることが相当であるとの判断に基づいて、本件対応命令を発令している。
ウ そうすると、本件対応命令の具体的な内容については、前記イ(ア)の中労委認定に係る不当労働行為の内容、同(イ)の懸念の内容、同(ウ)の本件対応命令を発令する趣旨を考慮するとき、中労委が主張するとおり、「組合が、本件命令発出後、法人が清算手続中である状況においても、なお義務的団交事項と認められる組合の組合員の労働条件を議題とする団体交渉申入れを行った場合、法人は、新たな議題についてのみ団体交渉に応じるといった開催条件を付すなどして、協議の行き詰まりがないにもかかわらず従前の議題について団体交渉を拒否するという対応、開催された団体交渉において、議題を協議対象として取り上げず、結論を述べるのみで具体的な説明をしないなど議題について実質的な協議を行わないという対応、あるいはこのような第8回団体交渉までと同種又は類似の不誠実な対応をすることなく、同申入れに対応しなければならない。」と了解することが十分に可能なものである。
(2) 以上によれば、法人が前記第2の2(1)において主張する点は、採用することができない。
3 本件対応命令の著しい裁量逸脱の有無(当事者の主張(2))について
(2) 前記第2の2(2)ア(本件命令の発出時における本件対応命令の必要性、合理性の欠如)について
 このように、本件解任等に関する第8回団交までの法人の不当労働行為に該当する対応が行われていることに加え、法人が、第8回団交の後においても、組合員の労働条件を議題とする団体交渉申入れに対し、団体交渉開催に当たっての条件や留保を付し、本件再審査結審まで、結局、団体交渉を開催していなかったことを併せ考慮すれば、法人において、組合からその組合員の労働条件に関する団体交渉の申入れがされても団体交渉を開催せず、あるいは申入れに応じて団体交渉が開催したとしても実質的な団体交渉を行わないといった対応をとるおそれが多分にあると認めることができる。そうすると、法人による本件対応命令が前提とした第8回団交までの不当労働行為と同種あるいは類似の不当労働行為が将来において行われるのを防止すべく、本件対応命令を発令する必要性も合理性も認められるといえるから、法人において、今後も、組合の組合員の労働条件に関する団体交渉において、第8回団交までの場合と同様の対応に及ぶことも懸念されると認定した本件対応命令の発令は、労働委員会の裁量権の範囲内の判断であって、相当であるといわなければならない。
  なお、法人は、本件対応命令の内容が、まさに審査対象外の事実を不当労働行為に該当すると評価、判断して救済命令を発するのと実質的に異ならないとして、本件対応命令の違法を主張する。しかしながら、既に前記1 において説示したとおり、使用者が行った不当労働行為が単なる一回性のものでなく、労働委員会による審問終結時には、それが何らかの事情で既に解消されていても、再び繰り返されるおそれが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会において予めこれを禁止する不作為命令を発するを妨げられないというべきであり、本件において、本件解任やその根拠となった本件報告書、あるいはこれらの撤回の議題について誠実団交応諾を命じるまでの必要がない状況とされたのは、A1が自発的に退職の道を選んでおり、その後同人が労働審判を申し立てて調停成立に至ったことや、法人が解散決議を行って現在清算中であることを踏まえての判断であって、それらは組合との関係において法人が歩み寄ったとは言い難い事情であるから、A1の労働条件等に関する交渉について救済命令を発令する必要がなくなったことをもって、直ちに将来の不当労働行為防止の必要性が存在しないとか、解消したといえる関係にないことも明らかである。
  そうすると、法人のこの点の主張は理由がない。
(3) 前記第2の2(2)イ(認定された不当労働行為と本件対応命令の関連性の欠如)について
ア 第8回団交までの主たる団体交渉議題は、本件解任やその拠り所となった本件報告書の撤回という組合員の労働条件の不利益変更に関するものであるのに対し、第21回団交後の申入れに係る主たる団体交渉議題も、本件雇止め予告や本件賃金等減額という組合員の労働条件の不利益変更に関するものである。これらの議題は、いずれも組合員の労働条件に関するものであるところ、中労委が主張するように、さらに細かく見れば労働条件を不利益に変更するものであるという点においても共通性を有する議題であるといえる。
  そして、第8回団交までの団体交渉については、既に繰り返し説示しているように、労組法7条2号所定の不当労働行為が成立するものであり、また、第21回団交後の申入れに係る法人の対応の内容については、前記のとおりに認められるのであって今後も組合員の労働条件に関する団体交渉について、第8回団交までのものと同種又は類似の不当労働行為を繰り返すおそれが多分に存在することを裏付けるものといえるから、本件においては、そのような不当労働行為が発生するのを防止する救済命令を発する必要性が高い場合であるといえる。
イ(ア) この点、法人は、本件命令が述べるような「組合員の労働条件」という抽象的な括りで将来の再発防止を認定するとすれば、全く異なる議題であっても同じテーマに含まれることになるのは当然であり、本件解任の撤回や本件報告書の撤回という本件当初議題と、「A3の雇用問題やA2に対する賃金カット問題等」という議題との間におよそ共通性を見出すことはできない旨を主張する。
  しかしながら、労働委員会には、使用者の従前の態度等から将来の状況を予測し、個々の事案ごとに特定の必要性を検討して同種あるいは類似の「将来の不当労働行為の防止」を図るべく裁量が認められていることに照らすと、使用者に対して誠実対応を義務付ける範囲が広範になりすぎないようにしつつ、反面において命令の潜脱が容易にされないようにすべく、同種あるいは類似の将来の不当労働行為の内容を特定すれば足りると解すべきであり、ここでいう特定は、使用者において同種あるいは類似の将来の不当労働行為の内容を理解することができる程度に特定することができれば足りるというべきである。
 (イ) また、法人は、第21回団交後の法人の対応と第8回団交までの法人の対応とは関連性を持たない全く異種、異質なものであり、被告が述べるような第8回団交までの場合と同様の対応に及ぶことの懸念を裏付ける事実は全く存在しない旨を主張する。
  しかしながら、第8回団交までの法人の不誠実な交渉対応は、第2回団交に出席し、本件議事録作成に関与したB2副理事長の出席をはじめとする交渉出席者及び交渉手続を巡る応酬、交渉に進展が見られないから交渉の必要がないという法人の認識に起因するものであるところ、第20回及び第21回団交において、組合が法人側のB9理事の発言を求めるなどした出席者ないし発言者を巡る応酬に端を発したものであることを併せ考慮すると、法人の不誠実な交渉対応は、いずれも交渉出席者ないし発言者及び交渉手続を巡る応酬を行い、あるいはそのような応酬を捉えて実質的な団体交渉を行わないというものであり、このような一連の法人の対応は、将来的に第8回団交までの場合と同様の対応に及ぶことの懸念を裏付けるものというのが相当であり、このような懸念の存在は、第8回団交から第20回団交までの間に1年4 か月の期間の経過と11回の団体交渉が問題なく開催されたという事実があったとしても、払拭されるものではない。
  そうすると、この点に関する法人の主張も理由がない。
(4) 前記第2の2(2)ウ(法人が精算手続中であることの看過)について
  法人は本件命令の発令時には既に清算手続が開始されて清算法人に移行しており、今後法人が清算前に行っていた事業を再開することを窺わせる事情も認められないことが認められるところ、法人は、平成26年5月末日をもって、事務局を閉鎖し、事務局職員との間の労働契約を合意退職又は解雇によって終了したものであり、爾後、解雇に関する議題についての団体交渉申入れがあれば、法人がこれに応諾する義務があるとしても、広く「組合員の労働条件」を議題とする団体交渉の申入れに応諾する義務が発生する場面は想定し難いところである旨を主張する。
  しかしながら、清算手続中の法人も、清算事務の決了まで労使関係は部分的とはいえ存続するのであって、組合の組合員の解雇に関する議題が想定される典型的な団体交渉事項であることは否めないとしても、その他の労働条件として解雇に関連する未払賃金など雇用関係に付随する各種の権利義務関係が派生することが明らかであり、また、解散前の従前未清算であった組合の組合員の労働条件の問題もあり得ること、これらのことに前記認定の法人の状況にも鑑みれば、本件対応命令を発出することにより、法人による組合員の労働条件に関する誠実な対応を確保し、もって今後もなお清算法人たる法人に存続する労使関係の正常化を図ることが相当というべきである。
  そうすると、法人の主張は理由がない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成19年不第95号、21年不21号、22年不71号、23年不63号 一部救済 平成26年1月21日
中労委平成26年(不再)第17号 一部変更 平成27年9月16日
平成28年(行コ)第403号 棄却 平成29年4月26日
 
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