労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成26年(行ウ)第441号
東急バス(19~23年度)不当労働行為救済命令取消請求事件(甲事件)、第558号不当労働行為救済命令取消請求事件(乙事件) 
甲事件原告兼乙事件被告補助参加人  X1株式会社(「会社」) 
甲事件被告補助参加人兼乙事件原告  Y1労働組合(「組合」) 
甲事件被告補助参加人兼乙事件原告  Y2、Y3、Y4、Y5、Y6、Y7、Y8、Y9、Y10、Y11、Y12 
乙事件原告  Y13(Y1からY12と併せて「組合員ら」、「組合」と「組合員ら」を併せて「組合ら」) 
甲事件被告兼乙事件被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成28年12月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が残業扱いとなる業務(以下「増務」という。)の割当てについて、組合員らとその他の従業員とで異なる取扱いをしたことが、不当労働行為に当たるとして、都労委に対し、①増務の割当て差別の禁止、②組合員らに対するの増務割当ての差別的取扱いによるバックペイの支払、③謝罪文の交付及び掲示を求める申立てを行ったところ、都労委は、①増務の割当て差別の禁止、②Y13を除く組合員らに対する平成19年11月から平成24年1月まで(支給月が平成19年12月から平成24年2月までのもの)のバックペイ及びこれらに対する各支給日の翌日からそれぞれ支払日まで年5分の割合による金員(以下「遅延損害金相当額」という。)の支払、③謝罪文の交付及び掲示を命じた
2 会社及び組合らは、これを不服として、中労委に再審査請求をしたところ、中労委は、本件初審命令のうち、Y13を除く組合員らに対するバックペイの支払金額(Y9については支払対象期間の変更を含む。)及びこれらに対する遅延損害金相当額の起算日を一律に平成25年3月25日(本件初審命令が会社及び組合らに交付された日)と変更する旨の命令(以下「本件中労委命令」という。)を発した。
3 これを不服として、会社が、そもそも不当労働行為は存在しないなどと主張し(甲事件)、組合らが、Y13についても不当労働行為が成立する上、組合員らに対して支払われるべきバックペイの金額にも誤りがあるなどと主張して(乙事件)、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社及び組合らの請求をいずれも棄却した。  
判決主文  1 甲事件原告兼乙事件被告補助参加人の甲事件の請求並びに甲事件被告補助参加人兼乙事件原告ら及び乙事件原告Y13の乙事件の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、甲事件及び乙事件を通じて、これを2分し、その1を甲事件原告兼乙事件被告補助参加人の負担とし、その余を甲事件被告補助参加人兼乙事件原告ら及び乙事件原告Y13の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
2 争点1(本件救済命令申立てに二重申立て等の違法があるか)について
(1) 組合らは、平成20年12月15日付けで、都労委に対し、増務割当ての差別の禁止、平成19年7月から救済命令がされる日までのバックペイの支払、謝罪文の交付及び掲示を求めたところ(本件救済命令申立て)、会社は、本件救済命令申立てのうち増務割当て差別の禁止を求める部分は、第1事件〔都労委平成13年(不)第96号、同14年(不)第9号、同15年(不)第115号〕及び第2事件〔都労委平成17年(不)第102号〕に係る救済命令と同一の救済命令を求める申立てであり、二重申立てに当たる旨主張する。
  この点、不当労働行為救済命令申立事件の審査手続における審査の対象は、不当労働行為の有無であるところ、組合らは、本件救済命令申立てにおいて、平成19年7月25日から救済命令がされる日までのパックペイの支払も求めていることからすれば、同期間の不当労働行為の有無が審査の対象とされているものと認められる。他方、第1事件に係る救済命令は平成12年11月から平成17年2月までの不当労働行為の有無を、第2事件に係る救済命令は同年3月から平成19年6月までの不当労働行為の有無を審査の対象としていたのであるから、本件救済命令申立てが第1事件及び第2事件に係る救済命令と同一の救済命令を求める申立てと認めることはできない。
(2) また、会社は、第1事件及び第2事件に係る救済命令後も増務割当てに係る差別が続いていたとしても、同命令の履行の問題であり、新たに救済命令を申し立てる利益もない旨主張する。
  この点、増務割当ての差別禁止の救済命令は、将来の増務割当ての差別を禁止したものであるところ、上記のとおり、第1事件及び第2事件に係る救済命令と本件救済命令申立ては、それぞれ異なる期間の不当労働行為の有無を問題としたものであり、その基礎となる不当労働行為となる事実が異なる以上、それぞれに将来にわたる増務割当ての差別禁止を求める利益がないとはいえない。
(3) 以上のとおり、会社の上記主張はいずれも採用することができず、本件救済命令申立てには、二重申立てないし申立ての利益を欠く違法はない。
3 争点2(増務割当て差別に係る不当労働行為の除斥期間の起算点)について
  組合らは、平成20年12月15日、本件救済命令申立てをし、組合員らに対する平成19年7月から平成24年1月まで(支給月が平成19年8月から平成24年2月までのもの。ただし、Y13については、平成20年4月から平成24年1月まで、支給月が平成20年5月から平成24年2月までのもの)のバックペイの支払を求めたところ、本件中労委命令は、上記申立てのうち平成20年12月15日より1年以上前に残業手当の支給日が到来する平成19年7月分から同年10月分までに係る申立てについて、労組法27条2項により除斥期間を経過しているとして、不適法却下した。これに対し、会社は、上記不適法却下の範囲について、使用者による残業に係る差別的取扱いは、残業の割当てを差別することであって、残業手当の支給自体は賃金規定によって機械的にされるものであるから、増務割当ての差別に係る不当労働行為の除斥期間の起算点は、当該増務割当てがなかった日とするべきであるとして、組合らが本件救済命令の申立てをした平成20年12月15日より1年以上前の日の残業割当てに係る申立ては、労組法27条2項により不適法却下されるべきであると主張する。
  この点、労働委員会は、不当労働行為救済命令の申立てが、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない(労組法27条2項)ところ、残業に係る差別は、現実に残業手当が支給される段階で実現されるものであり、残業の割当てがされず残業手当の支給がされないという一連の行為が不当労働行為と評価されるのであるから、除斥期間の起算日は、残業手当の支給日と解するのが相当である。そうすると、本件救済命令申立てのうち平成19年11月分(同年12月25日支給分)は、除斥期間を経過しておらず、これを救済命令の対象とした本件中労命令の判断に誤りはない。
  なお、会社は、賃金の支払時期の規定の仕方如何により不当労働行為があったとされる期間が異なるとすると、使用者が一方的に不利益を被ることになる旨主張するが、上記のとおり、残業に係る差別については、残業の割当てがされず残業手当の支給がされないという一連の行為が不当労働行為と評価されることから、残業手当の支給日が除斥期間の起算点とされるものであり、これにより使用者が一方的な不利益を被るとはいえない。
  したがって、会社の上記主張は採用することができず、本件救済命令には、労組法27条2項の適用を誤った違法はない。
4 争点3(増務割当差別による不利益取扱い(労組法7条1号)及び支配介入(同条3号)の成否)
(1) 組合ら及び被告は、会社は組合員ら(ただし、被告の主張ではY13を除く。以下同じ。)について、組合に所属するが故に、残業手当を低額に抑え、その家計に打撃を与えることを企図して、増務の割当てから外したり、これを制限するなどしており、会社の組合員らに対する増務割当ての差別は労組法7条1号所定の不利益取扱い及び同条3号所定の支配介入に当たる旨主張する。
  この点、一般的に、使用者には従業員に残業を命ずる義務はないものの、残業手当が従業員の賃金に対して相当の比率を占めているという労働事情の下においては、長期間継続して残業を命じられないことは従業員にとって経済的に大きな打撃となるものであるから、特定の労働組合の組合員に対して残業を命じないという取扱上の差異を設けるについては、そうすることに合理的な理由が肯定されない限り、その取扱いは当該労働組合の組合員であるが故の差別的不利益取扱いであるというべきであり、それは同時に組合員を経済的に圧迫することにより組合内部の動揺や組合員の脱退等による組織の弱体化を図るものとして、その所属組合に対する支配介入にも当たるものと解される(最高裁判所昭和53年(ツ)第40号同60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730頁参照)。
  これを本件についてみるに、会社の採用する変形労働時間制の下においては、乗務員の所定労働時間の範囲内ではバスダイヤのすべてを割り当てることができない場合が多く、増務の割当てをする必要性が極めて高いこと、おおむね半数以上の乗務員が1か月30時間以上の残業をしていることが認められるところ、乗務員の多くは増務の割当てを受けて残業手当の支払を受けることを期待していたものと容易に推認することができる。そして、会社と組合との間に、特段残業時間を制限するような取決めがあるとはうかがえないから、組合員らと他の乗務員との間に増務割当ての取扱いに差異があり、そうすることに合理的な理由が肯定されない限り、その取扱いは組合の組合員であるが故の差別的不利益取扱い及び組合に対する支配介入に当たるものと解される。
5 争点4(救済方法に関する裁量権の逸脱・濫用の有無)
(1) 労働委員会は、当該事件における使用者の行為が労組法7条の禁止する不当労働行為に該当するものと認めた場合には、これによって生じた侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るために必要かつ適切と考えられる是正措置を決定し、これを命ずる権限を有するものであって、かかる救済命令の内容(主文)の決定については、労働委員会に広い裁量権が認められているものと解される。したがって、裁判所は、労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われている場合には、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないものと解される(最高裁判所昭和53年(行ツ)第40号同60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730頁参照)。
  以下、上記見地から本件中労委命令の救済方法に裁量権の逸脱・濫用が認められるか否かについて検討する。
(2) 増務割当ての差別を禁止する部分について
  本件中労委命令は、組合員らとそれ以外の乗務員とを比較すると、増務の割当てがないか極端に少なく、残業手当が低額に抑えられている状態をもって、差別がある状態と認定しているものであって、組合員らが他の乗務員と同様に増務の割当てを受けることが差別のない状態を指すことも明らかである。
  また、乗務員の要求が様々で、結果的に増務の割当てを拒否することがあるとしても、増務の割当てを拒否していない組合員らに対して、他の乗務員と同様に増務の割当てをすることは可能であるから、履行不能な命令であるということもできない。
(3) バックペイの支払を命ずる部分について
  会社の乗務員の中には、増務の割当てを希望する者とそうでない者がいるところ、増務を希望する者を基準に平均残業時間を算出すれば、全乗務員を基準に算出した平均残業時間よりも多くなるものであり、組合員らはいずれも増務の割当てを希望している以上、増務を希望する者を基準に算出した平均残業時間の方が、組合員らが本来行うことのできたであろう残業時間に近接するとも考えられる。しかしながら、本件中労委命令は、増務を希望する者とそうでない者の比率が不明であることや、実際に組合員らが要求された増務を全て実施できたか否かも不明であることなどの諸事情を考慮して、全乗務員を基準にして平均残業時間を算出したものであるところ、上記の諸事情の許においてかかる算定方法を採用することをもって不合理なものであるとはいえないから、労働委員会の裁量の範囲を逸脱・濫用したものと認めることはできない。
(4) バックペイの支払に関するY9の救済期間について
  Y9が、平成20年4月以前に会社に対して残業ができる旨表明したと認めるに足りる証拠はなく、むしろY9の上記発言からすれば、少なくとも同月までは、操車係において、Y9が増務を拒否しているものと認識していたものと認められるから、組合らの上記主張は採用することができない。
(5) 遅延損害金相当額の支払を命ずる部分について
  救済命令の内容は、労働者に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけでなく、併せて組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労働関係秩序を回復、確保するという観点から具体的に決定されるべきものであるから(最高裁判所昭和45年(行ツ)第60号・同第61号同52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁参照)、バックペイの支払を命ずる目的には、労働者の個人的被害を救済することも含まれて然るべきものであるところ、支払われたであろう賃金額に遅延損害金相当額を付して支払を命ずることも労働委員会の裁量の範囲内にあると解されるから、本件中労委命令が会社に対し、バックペイの支払に加えて、これに対する遅延損害金相当額の支払を命じたことは、労組法7条に反しない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成20年(不)第89号 一部救済 平成25年2月19日
中労委平成25年(不再)第18、20号 一部変更 平成26年7月16日
 
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