労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁平成28年(行コ)第201号
三軌工業不当労働行為救済申立棄却命令等取消請求控訴事件 
控訴人  X1ユニオン(「組合」) 
被控訴人  滋賀県(代表者兼処分行政庁・滋賀県労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1株式会社(「会社」) 
判決年月日  平成28年12月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1A1は、C5等に雇用され、会社がC1株式会社から請け負った新幹線軌道工事の現場で稼働していたが、平成23年12月26日をもって、上記新幹線軌道工事の現場で就労できなくなったため、組合に加入した。
2組合が、組合員に対する直接雇用義務違反等を掲げて団体交渉を申し入れたところ、会社が応じなかったこと、A1が組合に加入していることを理由に直接雇用の申込みを行うことに抵抗があるとの回答を行ったことが不当労働行為に当たるとして、滋賀県労委に救済を申し立てたところ、県労委は、人種偏見に基づく発言への謝罪等の事項に係るものを却下し、その余の申立てを棄却した。
3組合は、これを不服として大津地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。
4組合は、これを不服として大阪高裁に控訴したが、同高裁は組合の控訴を棄却した。 
判決主文  1本件控訴を棄却する。
2控訴費用(補助参加により生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  第3当裁判所の判断
2争点(1)会社が、労組法7条の「使用者」に当たるかについて
(1)黙示の雇用契約の成立について
ア本件において、A1は形式的にはC5との間で労働契約を締結しており、会社との間で明示の労働契約を締結していないことには争いがないところ、組合は、会社への労働者供給を目的とするC5とA1との間の雇用契約は公序良俗に反して無効であり、会社とA1との間に黙示の労働契約が成立している旨主張する。
A1と会社との間で黙示の労働契約が成立していると認められるためには、会社とA1との間で労働契約を締結する意思が客観的に推認されることを基礎付ける事実関係が認められることが必要である。そのためには、労働契約が使用者が労働者に対して賃金を支払い、労働者が使用者に労務を提供することを基本的な要素とする以上、実質的にみて会社によりA1に対する給与の決定、支払がされているとみなし得るような関係があることや、採用、配置、懲戒、解雇などの人事労務管理についての権限を会社が事実上有していること等の事情を要し、単に、作業についての指揮命令権等を有するだけではこれを認めることはできないと解される。
そこで、会社がA1に対して有していた支配、決定権の内容を検討すると、下記(ア)ないし(エ)のとおり、会社は、A1に対し、その日の作業内容、作業時間等を決定し、現場での指揮命令権を有していたことは認められるが、各人の労務管理までは行っておらず、給与を実質的に支払っていたとみなし得る権限や採用や雇用の終了等についての権限は有していなかったと認められ、黙示の労働契約が成立していたと認めるに足りる客観的状況があったとは認め難い。
(ア)作業内容等についての支配について
会社は、C1から受け取った年間・月間スケジュールに基づいて、作業内容や必要人数を記載した作業計画書を作成し、これを各二次下請会社に交付し、作業当日には各二次下請会社が提出した出勤表をもとに各労働者の作業場所毎の配置を決め、点呼簿やその日の作業予定表を作成していたのであるから、会社が、A1の各出勤日の最終的な作業現場、作業内容を決定していたことが認められる。また、会社の社員である軌道作業責任者の任務には工事施工の指示及び施工工程の確認が含まれていたことや、作業現場において班長等の会社の従業員がA1を始めとするブラジル人労働者に対して作業内容を指示していた事実が認められる。これらの事実からすると、会社が、本件工事についてA1の作業場所、作業内容、作業時間等を決定し、現場での指揮命令を行っていたということはできる。
もっとも、前記のとおり、会社が作業計画書で指定するのは各作業毎の必要人数のみであり、これに応じて各二次下請会社が作成した出勤表のとおり派遣ないし供給された労働者について、作業予定表によりその日の作業現場等を決めていたにすぎないから、誰を派遣ないし供給するかを決定するのは各二次下請会社に委ねられていたといえるし、A1が仕事を休む場合にはC5等の雇用契約会社に連絡し、同会社が承認していたのであるから、個々の作業員の1月を通じた具体的な就労日数や就労時間等の管理は、各二次下請会社又はC5が行っていたというべきである。
組合は、会社から必要人数を7名以上と求められれば、もはやC5としては全員を就業させるしかなく、人員を選択する余地はない旨主張するが、会社から送付される作業計画書には、各二次下請会社に求める人数が記載されているのみであって、派遣ないし供給すべき者を特に指定することはないのであるから、C5が更に人員を雇い入れれば、C5において任意に人員を選択することも可能であった。したがって、C5から7名と指定されただけで誰を就業させるかの決定権までもが会社にあるということはできない。
(イ)給与の決定・支配について
A1の給与は、A1とC5との間での労働条件契約書によってあらかじめ時給2000円ないし2500円と定められており、基本的には、C5が、これに基づいて稼働時間を計算し、支払っていたものと認められる。そして、上記契約条件は、C5が自ら決定、提示し、A1がこれに合意して成立したものであり、その合意に会社が関与していたことはうかがわれないから、A1の給与の額の決定、支払について会社が支配していたとはいえない。
組合は、C5からA1に支払われる給与の額は、会社からC2に対し、C2から派遣された労働者の延べ人数に1人当たりの単価を乗じて得られた請負代金額から、C2やC5の取得する利益を控除した上で支払われているから、A1の給与の額も実質的には会社が定めていることになる旨主張する。
確かに、C5がA1との問で合意した給与の条件は、C5が会社ないしC2から支払われると見込まれる請負代金額を前提に、自らの利益や経費を考慮して算出されたものであり、その原資も上記請負代金であると考えられるが、その算出に当たって考慮された利益率や経費率、労働者毎の配分割合等はC5がその経営判断として独自に定めているものであり、これに会社が関与していることをうかがわせる事情は何ら認められないこと、C5は、会社から請負代金の支払が遅延したとしてもA1に対しては期日までに給与を支払う義務を負うことなどからすると、これらの事実をもって会社がA1の給与の決定や支払について支配権を有しているということはできない。
(ウ)採用における支配について
組合は、会社がA1の採用にも関与していた旨主張する。しかし、前記認定事実のとおり、A1がC4に就職したのは、C4に勤めていたA1のいとこの紹介があったことが直接の理由であると認められ、会社の関与によるものではない。しかも、組合の主張によっても、会社がその採用に関与したことの根拠は、A1が、事前に会社の面接を受けたというものであるが、この点に関するA1の証言は、単に会社の事務所で代表者ないし担当者に会ったというものにすぎないのであって、その訪問日や、具体的にどのような面接が行われたか等の内容も明らかでない。かえって、C3は、本件事件の審問手続において、A1が会社の事務所に来たのはIDカードを作成するためであった旨供述し、同供述内容は合理性があり信用できることからすると、上記面会がA1の採用の可否を決めるものであったとは認められず、会社がA1の採用に関与していたとは認められない。
(エ)雇用関係終了における支配について
組合は、会社はC2との本件基本契約を解除することによりA1とC5との間の雇用契約も終了させることができたとして、会社はA1の雇用関係終了に関する権限を有している旨主張する。
確かに、本件基本契約の合意解除によりA1が本件工事に従事することができなくなったことは認められるが、そのことから直ちにA1とC5との雇用関係までが終了するものではない。前記認定事実によれば、実際にも、C5は、本件工事に従事できなくなったA1に対し、別の現場で稼働してC5との雇用関係を継続できるよう打診をしたが、A1が新しい現場で稼働した場合の待遇に不満があったためこれを断ったため、C5とA1との間の雇用契約を合意解約したことが認められるのであって、A1がC5を退職したのは、A1とC5自身の判断によるもので、本件基本契約が終了したことは、その契機ではあっても直接の原因とはいえない。
また、A1は、C5と退職の合意をした後、C5に対し、有給休暇41日分の給与の請求をする訴えを提起し、裁判上の和解をしているが、A1が、これらの訴えや和解の相手方としてC5を選択し、和解に当たって和解金を支払う判断をしたのもC5であって、会社は関与していないことが認められるから、A1自身も、雇用や解雇に関してはC5に判断権が帰属していることを認めていたといえる。
以上のとおり、A1とC5との雇用関係の終了ないし継続の判断について会社が関与しているとは認められない。
イこれに対し、組合は、A1とC5間の雇用契約は公序良俗に反して無効であるから、その判断を前提にA1と会社の間に黙示の雇用契約の成否を判断すべきである旨主張する。
しかし、仮に、A1とC5間の雇用契約が、組合の主張するように違法な労働者派遣を目的とするものであったとしても、それのみで直ちに、雇用契約自体が公序良俗違反により無効であるということはできないし、また、仮にこれが無効であったからといって、A1の雇用契約の相手方が、論理必然的に会社と定まるものでもない。むしろ、前記のとおりA1と会社間に黙示の労働契約の成立を認めるに足りる客観的状況が存しない以上、A1と会社間に黙示の労働契約の合意を認めることができないことに変わりはない。よって、組合の主張は理由がない。
(2)会社が、雇用主と同視できる程度に基本的労働条件等を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあることから労組法7条の使用者に当たるとの主張について
一般に、使用者とは、労働契約法上の雇用主をいうものであるが、労組法7条にいう「使用者」は、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と、部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年(行ツ)第17号同7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁)。
このように、雇用契約関係にない者も労組法7条の使用者に含まれるのは、同条の使用者が、団体交渉を中心とした団体的労使関係の当事者として不当労働行為を禁止され、労働委員会の発する救済命令の名宛人となる者を意味することから、必ずしも契約の相手方でなくても、団体交渉事項について現実的かつ具体的な支配権を有する者は、その限りにおいてかかる責務を負うのに適する場合があるからであると解される。
本件においては、組合は、会社に対し、A1の雇用継続及び直接雇用を求める団体交渉を申し入れ、その対応及びA1の直接雇用に関する不利益取扱いの是正を求めていたのであるから、その目的が実質的にはA1の雇用確保にあることは明らかである。したがって、これらの交渉事項との関係で、会社が労組法7条の使用者に当たるといえるためには、雇用確保に関する事項につき、雇用主と同視できる程度の現実的、具体的な支配権を有していると認められることが必要である。
しかし、上記認定のとおり、会社は、派遣ないし供給されてきたA1ら労働者の、当該出勤日の作業内容等についての支配決定権は有しているものの、その採用、配置、解雇等には関与せず、賃金の決定や支払にも関与していないことが認められるから、少なくともA1の雇用確保ないし直接雇用について雇用主と同視できる程度の現実的、具体的支配権を有しているとは認められない。よって、会社を同条の使用者と認めることはできないというべきである。
これに対し、組合は、会社の有する作業内容、業務態様等についての支配決定権の具体的内容を考慮して使用者性を判断すべきである旨主張する。しかし、上記の労組法7条の使用者概念の趣旨からすれば、雇用契約を締結していない者について自己が支配、決定権を有していない事項についてまで使用者性が認められ、団体交渉に応じるなどの義務を負うべき合理的理由はないから、会社がA1の日々の作業内容等について支配権を有していたとしても、そのことをもって雇用確保を交渉事項とする本件において使用者性が認められるべきこととなるものではない。しかも、会社が作業内容等に関して有する支配決定権は、各二次下請会社から派遣ないし供給されてきた労働者について、その日の作業現場や作業内容等を決め、指揮命令する権限にすぎず、各労働者の週間ないし月間を通じた就業日数、就業時間等を把握し、管理しているものではない等限定的なものにとどまるから、日々の労働条件等に関する事項についての交渉であれば別として、少なくとも、雇用確保を求める交渉において雇用主と同視できる程度の支配決定権を有しているとする根拠になるものではない。よって組合の主張は理由がない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
最高裁平成29年(行ツ)第157号・平成29年(行ヒ)第173号 上告棄却・上告不受理 平成29年7月4日
大津地裁平成27年(行ウ)第13号 棄却 平成28年6月16日
滋労委平成25年(不)第2号 棄却 平成26年12月15日
 
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